007/ゴールドフィンガー
GOLDFINGER
1964年 イギリス/ガイ・ハミルトン監督作品
満足度 ★★★★★大傑作!
大好きな映画! 不思議と何度観ても飽きない♪
それどころか、何度観てもニンマリする♪
この映画はそういう数少ない映画のひとつだ。
『ドクター・ノオ』『ロシアより愛をこめて』に続く
シリーズ3作目にして、007映画の頂点かもしれない。
これはショーン・コネリー主演の007映画の頂点という意味だ。
(このことは後で書く)
多くの人がシリーズ最高傑作は『ロシアより愛をこめて』だと言う。
異論はないが、この『ゴールドフィンガー』は大傑作なのだ!
どこがそんなに? と問われれば、
映像としての007の完成形 だからである。
前2作が非凡な作品であることに変わりはなく、
とくに第2作は続編はつまらないというジンクスを破った。
『ゴールドフィンガー』は、前2作の大ヒットを受けて制作されたため、
ヒット作としての下地が出来た状態で創られた安定した作品である。
その意味では、何もないところから創造した『ドクター・ノオ』こそが
映画007の傑作と呼ぶにふさわしいのかもしれない。
しか~し! なのである。
『007/ゴールドフィンガー』こそが映像としての007を確立したのだ。
これに続く007はすべてこの作品のバリエーションと言える。
私はそう思う。
★ 新時代のヒーロー ★
前作に続き、当時としては最新の楽器だったエレキギターによる
ジェームズ・ボンドのテーマ。印象的なオープニングとパンチの効いた主題歌。
ケン・アダムによる近未来的セットデザインの優雅さ。
要所に挿入されるユニークな効果音、秘密兵器、ボンドカー、
カーチェイス、生々しい格闘シーン、お色気 etc…
王道アクション映画の基本スタイルが、ほとんどここにある。
初期の007は、約2年で1~3作目までを一気に製作している。
初めはB級映画として創られた低予算映画が
半世紀以上も続くシリーズになろうとは! 制作者が一番驚いたはずだ。
ショーン・コネリーのジェームズ・ボンドは、当時社会現象になった。
ダニエル・クレイグのボンド人気なんてものじゃなかった。
私はリアルタイムでこの作品を観た世代なので、当時の熱狂をよく覚えている。
それはもう尋常ではない。単なる人気ではなかったのだ。
誰もが待ち望んでいた新時代のヒーローの誕生という
心震える感動的な体験だったのである。
『コネリーのボンドか、ボンドのコネリーか?』
どっちが本名かわからなくなる人が結構いたほどの『はまり役』だった。
同時代の社会現象にあのビートルズ旋風があり、
劇中でボンドが『ビートルズは耳栓をして聴くべし!』というジョークを
とばしているのもなつかしい。ロックは騒音だった時代だ。
ロックが新しい時代の幕開けにふさわしかったように、
娯楽アクション映画のヒーローにも新しさが求められていた。
紆余曲折を経て、無名に近い新人ショーン・コネリーが選ばれたという奇蹟。
原作者フレミングだけでなく、制作者サルツマンとブロッコリーさえもが
コネリー起用に懸念を示したにも拘らず、彼が選ばれたのはなぜか?
これも何らかの眼に見えぬ力が働いたとしか言いようがないだろう。
コネリー・ボンドは大きな賭けだったのだ。
こうして生まれた新ヒーローが007映画の核となり新時代を牽引した。
さかのぼってボンド映画を鑑賞する若い世代には、
残念ながらこの『心震えるボンド体験』は味わえない。
リアルタイムで観た世代にとって、コネリー・ボンド映画は、
ダイヤの原石(新時代)を発見する体験だった。
★ ショーン・コネリー ★
『ドクター・ノオ』には、まだ一昔前の映画の匂いが残っているが、
第2作で、独自の007スタイル(新しいアクション映画)が
完成されていることに今さらながら驚かされる。
さらに第3作のこの『ゴールドフィンガー』では、
その映像スタイルが洗練され、頂点に到達したという感じなのだ。
この間、わずか3年! まさに魔法である!
ところがその魔法も、第4作の『サンダーボール作戦』の前半40分を
過ぎたあたりから、スーッと潮が引くように消えて行く。
『サンダーボール作戦』の後半には新しさがほとんど見られない。
映画007は、当時と同じスタッフが今集まっても創れない。
それは時代によって創られた奇蹟なのである。
個人的には『ドクター・ノオ』『ロシアより愛をこめて』
『ゴールドフィンガー』の3作で『1つの007作品』という印象がある。
どれも優劣つけがたいからだ。
しかしなんと言っても、
コネリー・ボンドのあの存在感なくしては成立しなかった007の世界。
ショーン・コネリーが小説の主人公であったジェームズ・ボンドに
現実味と魅力を与えたのは、あの独特の表情である。
オープニングの格闘シーンで、腹を殴られた時に見せるあの苦悶の表情。
不覚にもゴールドフィンガーに捕まり、
レーザー光線で殺されかけた時に見せるあの必死の形相。
オッド・ジョブとの死闘の最中に見せる『こりゃかなわん!』という表情。
どれも生々しい人間ジェームズ・ボンドが息づいている。
映画の前半、ボンドがいかさまゴルフでゴールドフィンガーに勝った後、
さりげなく種明かしをするシーンが私のお気に入り。
いかさまのゴルフボールを用心棒にこなごなに砕かれてしまうと
『これは手強そうだ…』というなんとも気まずそうな顔を見せるボンド。
遊びモードが一瞬にして警戒モードに入ったという感じが実によく出ている。
他のボンド役者にはこの表情が出せない。
この時点でコネリー氏に名優としての萌芽があったかはわからないが、
コネリー氏のあの表情なくして映画のボンドはあり得なかった。
そういう『はまり役』を得られる役者は少ない。
他の007作品は、まずアクションありきという作りだが、
コネリー氏の007は、まず人間ジェームズ・ボンドありで、
そこにアクションがついている点に特徴がある。
そのコネリー・ボンドの実に多彩な表情が楽しめる魔法の逸品が本作である!
★ ケン・アダムの美術 ★
この映画を映像として面白くしている要素は多々あるが、
007という架空の空間を創造できたことが大きい。
第1作ではそれほど目立たなかったケン・アダムのデザインがそれだ。
今観るとスパイと言うより探偵物の雰囲気がある『ドクター・ノオ』
クライマックスのノオ博士の秘密基地のデザインもいいが、
ボンドの暗殺者が毒グモを受け取る小部屋の造形の不気味さ。
(この不思議な円形の天井から差し込む格子縞の影がまるでクモの巣のようだ)
この円形デザインの進化形が『ゴールドフィンガー』の冒頭に現れる。
(リアルタイムでこのシーンを観た時の感動は今でも忘れられない)
この独特の空間は、それまでのアクション映画になかったものだ。
007を他の亜流作品が超えられない大きな壁となったひとつが、
このケン・アダムが創り出したセットのユニークさである。
観客はこの背景美術というマジックによって異世界へと誘われる。
多くの観客がほとんど意識しない背景の吸引力。
それがコネリー・ボンド映画と後継の作品を隔てる『体験』なのである。
(ケン・アダムによるフォート・ノックス金塊保管庫の美術デザイン)
(実際の撮影に使われたセット)
この第3作は、原作小説にない美術という映像美を最初に開花させた。
007はスパイ映画だが、ケン・アダムのデザインによって、
『007ワールド』という異世界の創造に成功した希有な作品なのだ。
007はアクション映画でありながら、同時に空想物語でもある。
ケン・アダムのデザインがそれを視覚化することに成功した功績は、
どんなに讃えても讃え切れないだろう。
★ オッド・ジョブ ★
もうひとつはユニークな効果音のマジックである。
前2作には見られなかった不思議で魅力的な効果音がこの作品にはある。
それはゴールドフィンガーの用心棒、あのオッド・ジョブの『音』だ。
オッド・ジョブは口が不自由という設定なので、何も喋らない。
ひたすら『アー、アー!』と言うばかりの寡黙なキャラだ。
しかしこのキャラは言葉の代わりに『音』を持つ。
そう、あの『チン!』という鐘?の音だ。
この『音』には『人格』がある。
観客がこの『音』を最初に聴くのは、本編冒頭のマイアミのシーン。
ボンドに警告を与えるため現れたシルエット姿のオッド・ジョブ。
このとき『チン!』という音がする。これが実に多弁なのだ。
この音を聞いて震えなければ007ファンではない。
この音は、喋れないオッド・ジョブの声の代わりであると同時に、
『ゴールドフィンガーの世界観』そのものと言っていいだろう。
このシンプルな音の発想。これこそ音による007の完成形なのだ。
この音はゴルフ場でオッド・ジョブがボンドの前に初めて姿を現すシーンと、
殺人帽の威力を披露するシーンで繰り返され、
あの有名なフォート・ノックスでのボンドとの対決シーンで頂点に達する!
このシンプルな音が創り出す独自の雰囲気がこの映画の魅力のひとつだ。
映像的な面白さにユニークな音による世界が加味された本作。
これは前2作にはなかった発明である。
ちなみに、ゴールドフィンガーを裏切り全身に金粉を塗られて殺される
ジル・マスターソンがベッドに横たわるシーンでは、
『チン チン チン チン チン チン チン チ~ン♪』と8回も鳴る大サービス。
この音がゴールドフィンガーの狂気を演出している点に注目!
非常にオシャレだが背筋が凍るほどの恐さがある。
この音が評価されたのか知らないが
『ゴールドフィンガー』はアカデミー音響効果賞を受賞している。
(続きます)
★ネット上の『007/ゴールドフィンガー』の画像を流用・加工させて戴きしました 感謝!★
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