岩井田治行の『くまのアクセス上手♪』

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昇給1400ポンドプラス手当のスパイ♪

 

国際諜報局

THE IPCRESS FILE

1964年 イギリス/シドニー・J・フューリー監督作品

満足度★★★★

 

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昇給1400ポンドプラス手当。MI6に転属した陸軍軍曹。

反抗的! 尊大! 無秩序! 犯罪的な傾向あり!

これが本編の主人公ハリー・パーマーの勤務評価である。

アカンがな、こんなヤツ!

しかし、考えようによってはコネリー・ボンドも似たようなものだ♪

スパイの素質というのは、そういうものなのだろう。

従順、真面目、良心的では務まらないのがスパイである。

 

レン・デイトンの原作小説に登場するこのスパイには名前がない。

しかし、映画の主人公が名無しでは困る。

主役は若き日のマイケル・ケインだ。

 

そこで映画化するに当たって、監督とマイケル・ケインで話し合った。

どんな名前がいいだろうかと♪

 

主人公はスパイで退屈な男なので、退屈な名前がいいと監督。

ケイン氏が『ハリーは?』と言うと『本名はハーシェルだな』と監督。

そこでファーストネームはハリーになった。

 

続いて『君の知る最も退屈な男は?』という監督の質問にケイン氏が

『学生時代にパーマーという退屈な男がいた』と答えた。

そして、ハリー・パーマーという名前が決まったという。

 

だいたい傑作とか名作と呼ばれる作品には、こういうエピソードがある。

そんな簡単に決めたんか? というぐらいスムーズに成立する。

 

ジェームズ・ボンドという名前もそうだ。

確か、イアン・フレミングが愛読していた鳥類学か何かの本の著者名を

そのまま拝借したというエピソードがある。

だからジェームズ・ボンドは実名である。スパイではないが♪

 

熟考した企画が失敗し、気軽に考えたアイデアが後世に残る。

ボンド映画もそうだが、この映画にもそういう幸運な出会いがあった。

 

制作のハリー・サルツマンはボンド映画の制作者の一人である。

もう一人のアルバート・R・ブロッコリが娯楽指向だったのと対照的に

サルツマンはリアル指向の重厚なドラマを好んだという。

 

ビートルズにたとえれば、

サルツマンがジョンで、ブロッコリがポールということになる。

ボンド映画のリアル描写がサルツマンタッチなら、

荒唐無稽さはブロッコリタッチだった。

ジョン&ポールがビートルズなら、サルツマン&ブロッコリが007だ。

 

娯楽大好きのブロッコリの制作法が後のボンド映画の型になり、

リアルを追求したいサルツマンは、ボンド映画を降りてしまう。

そのサルツマンが『サンダーボール作戦』の頃、単独で制作したのが

この『国際諜報局』というスパイ映画だ。

 

サルツマンはボンド映画のスタッフを起用している。

音楽:ジョン・バリー

プロダルション・デザイン:ケン・アダム

編集:ピーター・ハント

 

ロッコリのいないスパイ映画がどうなったかというと…

実に地味なイギリス風味満載の作品に仕上がった♪

 

まず、ボンド映画と対照的なジョン・バリーの音楽がいい。

当時、ラジオの映画音楽特集で何度も聴いたが、色褪せない名曲だ。

この音楽がなければ成立しない独特の世界がある。

国際諜報局のテーマ

 

ケン・アダムのデザインは、とにかくシンプルでユニーク。

ボンド映画のような秘密基地こそ出ないが、

ケン・アダムの手にかかると、ありふれた部屋が一変する。

無駄を排した室内デザインは、非情なスパイの世界そのままだ。

 

シドニー・J・フューリーの演出が作為的すぎると批判されたらしいが

この演出があったからこそ後世に残ったのは間違いない。

何とも不思議な雰囲気が漂う魅力的な演出である。

 

極めつけは当時31歳のマイケル・ケインだ。

この映画はマイケル・ケイン抜きには語れない。

俳優になって10年目に巡ってきた大チャンスだったらしい。

前作『ズール戦争』を観ていた監督からのオファーで、

ハリー・パーマー役で俳優としてやっていく自信が持てた。

ケイン氏はそう語っている。

 

ショーン・コネリーがボンド役を払拭するのに苦労したのは有名な話。

その苦労を傍で見ていたケイン氏は一計を案じ、

ハリー・パーマーにメガネをかけさせようと提案した。

メガネをはずすことで、役を切り替えられると考えてのことだ。賢い♪

 

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マイケル・ケインの当たり役ハリー・パーマー

 

このメガネをかけたスパイというのが新鮮だった。

スパイと言うより、見た目はサラリーマンである♪

アクションに重点を置いた物語ではなく、スパイを人間として描いた。

『ブリット』もそうだが、パーマーもスーパーで買い物をする。

さらに、パーマーは料理まで作る理想の主夫だ♪ 独身だけど。

 

カッコイイとは言えないが、地味で生活感があって面白い♪

しかし、パーマーは陸軍軍曹である。

肉体的苦痛に耐える訓練を積んでいる軍人なのだ。

そういう痛々しいシーンも見所のひとつとなっている。

 

当時流行った言葉に『二重スパイ』というのがあった。

この映画はまさにそれだ! いったい誰が…??

疑い始めると主人公以外は全員怪しいから目が離せない!

 

イギリス風味の凝った筋立ては今観ても面白く、よく出来ている。

背景に冷戦という時代を感じる古さはあるが、色褪せない魅力がある。

デジタルの現代とはちがうアナログ時代の生々しさが全編に漂う。

諜報活動のほとんどが手作業というもどかしさがいい。

 

本国では英国アカデミー賞作品賞、撮影賞、美術賞を受賞し、

この後2作が作られ、ハリー・パーマー3部作として人気がある。

日本ではヒットしなかったが、それでも第3作まで公開された。

第2作の『パーマーの危機脱出』も面白い♪

 

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メガネだけでなく、このコート姿がとてもオシャレだ

今観ると時代を先取りしていたようなセンスの良さがある

 

ネット上の『国際諜報局』の画像を流用・加工させて戴きしました 感謝!

 

 

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