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言ってはいけない本を読む♪

 

言ってはいけない 残酷すぎる真実

橘 玲 新潮新書 ★★★★

 

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『残酷すぎる真実』というサブタイトルは、月刊『波』に連載された時のもので、

それではインパクトがないということでこのタイトルになったようだ。

言ってはいけない』と聞けば読みたくなるのが人間の性。

言ってはいけないなら言うなよ!』と突っ込む前に

『何を言ってはいけないの?』と知りたくなるからだ。

そういう意味で反則ではないが、ずるいタイトルである。

でもって、ものすごく売れているらしい。

 

ではどういう『言ってはいけない』ことが書いてあるのか?

本書の3部構成のタイトルを書き抜くと…

 

第1部 努力は遺伝に勝てないのか

(勝てないと書いてある)

 

第2部 あまりに残酷な「美容格差」

(本当に残酷だと書いてある)

 

第3部 子育てや教育は子どもの成長に関係ない

(関係ないと書いてある)

 

なんだよこれ? そんなこと知りたくないよと、誰もが思うのだった。

しかし、40万部も売れてしまったのも『残酷な真実』なのだ。

なぜ人々は(私も含め)残酷な真実を知りたがるのだろう。

自分はそうじゃないと知り安心するためなのか?

これは自分のことだと知り、自己嫌悪に陥るためなのか?

 

わては知らん。

知らんが『知りたい!』という欲求には勝てない。

勝てない→ 本を買う→ 読む→ 落ち込む→ 著者&出版社笑いが止まらない♪

多分、こういう順序になっている。

それでも知りたい人(私)がいる。世の中はよく出来ているのだ。

 

この本の全てをレビューするのは不愉快であるから、

興味のあることだけレビューする。それでも十分に不愉快だけど♪

 

第1部は『遺伝』についての考察である。

どういうことか一例を挙げると…

バカは損して利口は得するということを科学的に証明しているのだ。

つまり、知能は遺伝するのだよと。

 

ちょっと待て! そんなん証明すんなと、まず怒ろう!

しかし、この著者は容赦がない。だって遺伝するもんと。

バカも利口も遺伝する。そして、バカは損して利口は得する。

これが社会だと。

すべて遺伝なのか! ここで再び怒ろう!

 

知能は個人差だけでなく、人種によっても違うと。

これは科学的にも統計的にも証明されているから諦めろと。

諦めろとは書いてないが諦めざるを得ないような証拠を突きつけて来る。

 

白人と黒人ではどちらが知能が高いのか。

アジア系やヒスパニック、ユダヤ人はどうなのか。

そういうことが数字で書かれている。数字とグラフで! 容赦なく!

 

行動計量学者と政治学者のリチャード&チャールズくんが膨大なデータを作り、

『ベルカーブ』という本にまとめた。その本には、

現代社会が知能の高い層にきわめて有利な仕組みになっていると書かれている。

人種間で知能に差があることは様々な研究で明らかなのだと。

この差が環境によるものなのか、遺伝によるものなのか?

実はここがむずかしいところで、すべてを遺伝とは言い切れない。

言い切れないことになっている。

 

なぜなら、知識社会ではIQが低いと落伍者になってしまうという現実がある。

かならずそうなるわけではないが、確率は高い。

こういう現実を人生のスタートラインで親が子どもに教えたらどうなるか?

お先真っ暗になる。それはまずい。

だから『知能と遺伝は無関係』という前提ができたらしいのだ。

個人や人種に関係なく、努力することが大切なのだと。

こうして人はみな平等という神話が生まれた。

 

だから『知能と遺伝は無関係』という前提が支持されているのだが、

行動遺伝学には『知能が遺伝の強い影響を受けている』という知見がある。

将来、行動遺伝学の知見が正しいと証明される日が来るかもしれない。

この本は、その日に備えることが現実的だと主張している。

なぜなら、はい、注目! ここ大事なところだからね。

「知識社会」とは、

知能の高い人間が知能の低い人間を搾取する社会のことなのだ

 

お~ 言ってくれるじゃないか!

しかし納得! 確かにそうだ、おおそうじゃ!

知能が低いと搾取され、騙され、利用されるのだ! おおそうじゃ!

われわれはそういう『知識社会』に住んでいる、生きている。

知能の高い人がそうでない人を搾取していいのか! 三たび怒ろう!怒!

誰だって搾取されたくない、辛いもの、惨めだもの!

だからわれわれは、この残酷な真実にフタをすることにした。

知能は遺伝しない。してたまるか! 環境や貧困が原因なのだと。

かくして、

声高に人間の知能差を語ることは『言ってはいけない』こととなった。

 

知能に個人差があるという現実を知りつつ、われわれはそれを認めたくない。

それを認めることは人間として恥ずかしく許されないことなのだ。

そこで不都合なことを認めたくないわれわれの脳は考えた。

『みんな同じ』ということにしようじゃないかと!

 

これがわれわれの持つ無意識の思い込みである。

簡単に言えば『同い年は同じ能力を持っている』というもの。

同じ年に生まれ、同じ年に学校に入学し、同じ年から学び始める。

だからみんな同じであってほしい、そうあるべきだと。

 

これは思い込み&願望である。現実はどうか? 同じじゃない。ちがうよ。

しかし、同級生が自分より早く出世すると何だよアイツ! となるのはなぜ?

同じはずなのにという思い込みがあるからじゃないの?

同級生でもみなちがうと知っているのに、先を越されるのはくやしい、辛い。

諦め切れない。何だよアイツ! という不思議な感情が湧き起こる。

 

先輩に抜かれるのはいいが後輩に抜かれるのは許せない。

これも不思議な感情ではないだろうか?

人間は年齢に関係なく、優秀な奴は優秀なのだとわかっていても、

後輩が先輩より優秀であることを認めることができない。

 

むしろ、グーで殴りたい! 思いきり!

おまえ、俺より先に行くなと!!

 

スタートラインが同じでもみなちがうのだ。これが現実。

これを踏まえれば、人種間にいろんなちがいがあって当然なのだが、

絵や歌の上手下手、運動神経の良い悪いということとちがい、

知能の差というのは、そのちがいを指摘してはいけないことになっている。

 

アイツ音痴だぜ! というのも失礼だが、それを逆手に取って

歌ヘタ選手権で盛り上がることもできるだろう。

絵がヘタでもそのヘタさ加減がその場の爆笑を誘い、場が和むかも。

運動音痴やリズム音痴も本人次第で笑いに変えてしまうことができる。

そもそも、これらのことが苦手でも社会生活にはあまり困らない。

 

しかし、知能はちがうだろうと。高い方が有利だろうと。有利だよ。

他人より知能が低いというのは、ものすごいハンデなのだ。

われわれは人生の岐路で様々なことを考え決断し、選択を迫られる。

数ある選択肢の中から自分にプラスになるものは何か?

この結論を導き出すには、知能の高さが必要なのだ。

その能力が遺伝によって左右される。これほど不公平なことはない。

 

幸せになるために必要な能力が遺伝や人種によって差があるということは、

これはもう本人の責任ではない。生まれつきなのだから。

怠けた結果、高かった能力が下がったわけではない。

逆に、努力した結果高まったわけでもない。

 

知能が遺伝するならば、知能の高い人もそうでない人も

じつはそのままであるがままの自然体なのだということになる。

本人の努力と無関係なら、高くても自慢できない、低くても恥ずかしくない。

しかし、知能の低いまま生きていくことは大きなハンデとなる。

それを自然体と言えるほど、人の心は広くない。

 

これらのことを踏まえた上で、さてあなたはどう考え行動するのか。

それがこの本の最初の命題である。

だから、言ってはいけない! と怒る前に考えなければならない。

知能が遺伝による影響を強く受け、人種間でそのちがいがあるとすれば、

私たちはどういう社会を作っていかなければならないのか。

 

バカなんかほっとけよ! という社会でいいのだろうか。

遺伝子レベルで決められていることは努力では変えられないとすれば、

われわれはあるがままを受け入れるしかない。

それは『知能の高い人間が知能の低い人間を搾取する社会』ではないはずだ。

 

言うは易しだがこれがなかなかできない。

なぜ、知能の高い人間の多くはそうでない人間を助けないのだろう?

なぜ、できる人間は出来ない人間を見下すのだろう?

なぜ、環境だけでなく、人種によって知能に差があるのだろう?

人間はなぜそのように創られているのだろう?

 

この世界の仕組みに意味があるとすれば、

知能の差というものにも深い意味があるのだろうか?

 

この世界を俯瞰すると実に様々な生物が関係し合って生きている。

無駄がない。無駄な生物がいない。無駄な現象もない。

無駄に思えるのは、その理由を我々が知らないだけで、

地球上のあらゆる生物が空気や水も含め、密接に繋がっているのだ。

とにかく世界はそうなっている。

 

だとすれば、知能の差というものにも意味があるにちがいない。

ある人は高く、ある人は真ん中で、

ある人は低いということにどんな意味があり、

われわれはどんな世界を創っていかなければならないのか?

 

この本はただ単に『言ってはいけない』ことを羅列しているのではなく、

われわれに大きな問いかけをしているようなのだ。

(続きます)

 

 

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