岩井田治行の『くまのアクセス上手♪』

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たまには憲法九条について考えよう!(その2)

 

憲法九条を世界遺産
太田光中沢新一 集英社新書 ★★★★★ 必読!
(前回のつづきです)

 


★★★★
中沢さんは、この本の中で憲法九条を丘の上の修道院にたとえている。


普通に考えたらありえないものが、
村はずれの丘に立っているというだけで、人の心は堕落しないでいられる。
そういうものがあったほうが、
人間の世界は間違いに陥らないでいられるんでしょう


だから何だよと。修道院が暴漢から守ってくれるんかい!
そう考えてしまう現実派は、ここでこの本について行けなくなる。
この本で語られる内容は、現実的な自衛手段についてではなく
日本人の心という精神的なもの(規範)が中心となっているからだ。


我々の多くは平和ボケかもしれない。
しかし、平和憲法が一度も変わっていないことを多くの人が意識している。
ボンヤリとだが戦後の誓いは破られていないという意識だ。
この意識の集合体が日本人なのである。


我々には、『九条を一回だけ変えたよね』という意識はない。
70年以上の間、『一回も変えていない』という意識を持っている。
私は日本人が等しく持っているこの意識が
未来の我々の行動にどんな影響を与えうるのかということに興味がある。


何の影響もないかもしれない。
あるいは我々が思う以上に大きな影響があるかもしれない。
もし前者なら、平和憲法はもう必要ないのだろう。
でも後者だったら、とんでもないことになるかもしれない。
一度でも憲法九条を変えてしまったら、元には戻れない。
一回変えるも10回変えるも『変えた』事実は消えない。
一度変えれば『一度も変えない』場所には永久に戻れない。
だから慎重に考えなければならないとこの本は警告しているのだ。


現実的な憲法改正は世界中で行われているが、変える憲法は通常の憲法だ。
通常の憲法改正がその国に取り返しのつかない事態を招くことは稀だろうが、
世界でひとつしかない特殊な日本の平和憲法の改正が
未来の日本国民にどんな影響を与えるか、
これに関してはどの国の歴史にも前例がない。データもない。
変えた結果は誰にも予想できず、専門家の予想は全て外れるかもしれない。


憲法九条に自衛隊を書き込めば、平和憲法ではなく普通の憲法になる。
日本は戦後ずっと普通の国ではなかったという事実。
普通でなかったことによって特殊な憲法を維持できたという事実。
そういうことをこの対談で2人は語っている。


★★★★★
この対談は、宮沢賢治から始まりホリエモンからオウム事件を経て、
アメリカの先住民イロコイ族の連邦憲章が憲法九条にそっくりですよ
ホンマかいなそれ、という取り留めもない会話で構成されている♪
だから現実派はバカバカしくなってしまうかもしれない。
私はいい年をして、このバカバカしいものが今でも大好物なので
丘の上の修道院が夢にまではっきり現れるほどこの本の内容が心にしみた♪


憲法自衛権に関する本はたくさん出ているが、
初心者向けに書かれた本ですら、十分過ぎるほど専門的で難しい。


たとえば軍隊を持つとして、
それは国民を犠牲にしてでも『国家』を守るためのものなのか、
国民一人一人を守る(憲法第13条:個人の尊重)ためのものなのか。

日本を守るって、国家のこと? 国民のこと? 誰を何を優先するの?
こういうことを考えないで憲法改正賛成! と安易には言えない。

その他にも自衛権自衛隊法などは、相当勉強しないとわからない。
文民統制と言うけれど、専門知識のない我々に軍隊を監視できるのか etc…


正直、明日が国民投票日になっても正しい判断が出来るか自信はない。
そう考えて『まぁいいか』と思ってしまう人は多いはず。でもそれはダメ!
ちゃんと考えないと。自分の意見を持たないと。
でもどうやって? という人のためにこの本が役に立つかもしれない。


6月に韓国で行われた世界憲法学会の世界大会で台湾大学の張文貞教授が
アジアの22の国・地域の憲法を調べたところ、15の国・地域の憲法
侵略戦争の放棄』『平和の促進』『平和の維持』という文言で、
戦争や平和に関する条約が盛り込まれていたと報告した。


比較憲法の専門家米シカゴ大のトム・ギンズバーグ教授も同大会で
安倍政権が集団的自衛権の限定的行使を容認したとき、
批判の声が上がったのは、規範としての九条が機能している表れと述べた。
(2018/7/31 朝日新聞記事)


憲法学会でのこれらの発言は、
丘の上に非現実的な修道院があることの心理的影響力の大きさを示すもの
と受け取れる。規範というものはないよりあったほうがいいのだ。


この本はそういう規範についての対談だから読みやすい。
自衛についての専門知識の勉強にはならないかもしれないが
我々の平和に対する心の拠り所としての平和憲法がなかったら、
我々の意識はどう変化するだろうというシミュレーションができる。

憲法九条が空気のようなものなら、なくては困る。
空気は日本を暴力から守ってはくれないが、なければみな生きていけない。
そういうことを頭をシャッフルしながらいろいろ考えられる。


どんな結論が出ようと、自分の頭で考え自分なりの意見を持つべきだ。
太田さんと中沢さんは論客のプロなので、いろいろスゴイなぁと思うが
2人の考えに引きずられずに、自分なりの考えを引き出すための
参考書として活用するのがいいと思う。

ちなみに、私は平和憲法はそのまま、自衛隊も現状維持がいいという考えだ。
現状を維持することは、自衛隊違憲状態を続けることになるが
この世はけっこう融通が利くのだから、
違憲であり続けることで平和を維持できるなら、違憲のままでいい。
自衛隊違憲状態には、日本の特殊性という意味がある。
伊達や酔狂で違憲状態を維持しているわけではないのだ。

安倍総理は、違憲のままでは自衛隊員が気の毒だと言うが、
むしろ、自衛隊違憲でいてくれるから日本の平和は維持できるのだ。
だから、自衛隊違憲でも胸を張っていいのである。


私の考えはこの程度の貧相なものだが、
みなさんはもっと賢い結論を出せると思うのでお勧めしたい。

やはり平和がいい。出来るだけ永く。
日本もがんばったけど、令和までが限界だったね♪ と言われないために、
未読の方はぜひ一度お読みください。面白い本です。


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