荒木飛呂彦の漫画術
荒木さんの漫画は、
『ジョジョの奇妙な冒険(1)』と『ジョジョリオン(1)』を読んだのみで、
いずれも1巻以降は読む気になれなかった。
そもそもジャンプの漫画は、私には生理的に合わないのだ。
荒木さんの作品だけが合わないわけではない。
そんな荒木さんが自分の漫画術を赤裸々?に書いただろう本である。
以前、書店で立ち読みしたが興味を持てずに買わなかった本だが、
今回、何気に書店で見かけて購入した。
本との出会いとはこうしたもので、今回が買うタイミングだったようだ。
♥
で、早速読んでみた♪
まず驚くのは目次の項目。
第1章「導入の描き方」から始まり、漫画の基本4大構造、キャラクターの作り方、
漫画の絵について、世界観、テーマ、アイディア、ネーム、コマ割りの方法、
短編の描き方と、自身の作品に即して事細かく書いている。
これは凄いな~! 難しそうだなぁ~! と尻込みしながら読み始めると…
これが実に読みやすい、わかりやすい♪
ほほぉ~とページをめくる手が止まらなくなった。
この本はタイトルにあるように『荒木飛呂彦の』漫画術なので、
非常に個人的な内容である。
そして、ここで語られる漫画術は、
週刊少年ジャンプの「王道少年漫画」についてだ。
つまり、売れる漫画、出版社に損をさせない漫画の描き方ということ。
その意味では、『秋山治の仕事術』の本と同じで、かなり限定的な内容と言える。
一読して思うのは、荒木さんは漫画家にならなくても、
どこかの会社の商品開発部に勤務されたら、
たちまちその才能を開花させ、出世したのではなかろうかと思えることだ。
自分のマンガが編集者の目に止まるにはどうすれば良いか、
どうしたら読者を満足させられるのか。
そういうことを若い頃から戦略的に考える「才能」があったようだ。
漫画の描き方というより、ヒット商品をいかに作るかというノウハウ本とも言える。
荒木さんは感覚的な方だと思っていたが、かなり理論家のようだ。
とにかく徹底している。
漫画を描く前に、まずヒットしているマンガを詳しく分析する姿勢は、
まるで市場リサーチである。
そういう発想を若い頃から持っていたというのは、相当異質な人物でしょうね。
漫画以外の世界でも成功したのではないかと思わせるほどだ。
私はとてもついていけないが♪
プロの漫画家志望者を対象に、
王道少年漫画の描き方が書かれているので、実践的だが、
このテクニックが他の雑誌でも通用するかはわからない。
あくまで少年ジャンプの編集方針に沿った人気漫画(商品マンガ)の創り方である。
さらに言えば、ジャンプの編集方針は変わらなくとも、
読者がかなり変わっている可能性がある。
『ドラゴンボール』や『北斗の拳』に熱中した世代と今のジャンプ愛読者世代とは
違うかもしれない。
そこら辺は、現役のジャンプ編集者に聞くよりないが、
大ベテランの荒木さんの方法論がそのまま若い世代の漫画家の創作術と
全て重なることはないだろう。
時代は常に変化しているのだから。
そういうことを考慮した上で、
『荒木さんの方法」から学びたい漫画家志望者にはとても役立つと思う。
この本を叩き台に、
自分なりの「王道少年漫画」を確立させることは十分可能だろう。
何しろ現役漫画家が実践し、結果を出してきた方法論なので、
机上の空論ではないと思う。
♥♥
成功(または成長)する人間の特徴として『素直さ』がある。
荒木さんも秋本治さん同様、この『素直さ』を持っているのがよくわかる。
「お前の漫画は、こういうところがおもしろくないんだよ」などと
様々指摘されると嫌な気持ちになるでしょうが、
そこはやはり、意見を言ってもらえること自体が有り難い、
という態度を持つべきです(P.250)
当時のジャンプには、相当厳しい編集者がいたそうだが、
そこで腹を立てたり、挫けてしまってはプロにはなれない。
編集の厳しい言葉の裏に秘められている『真実は何かを考えなければならない』
という荒木さんの前向きな姿勢と情熱、向上心に
正直私は感動した。とにかく真面目なのだ。(当たり前だけど♪)
また、漫画は常に進化しなければならないという考えから、
この本の通りに漫画を描いてはいけないと最後にアドバイスしている。
その真意は、新しい漫画の描き方を生み出していってほしいという願いである。
ただ、新しい方法を考える途上で道に迷ったら、
この本を参考にしてほしいということ。親心ですね♪
荒木さんの考えはとてもシンプルで、
漫画を漫画たらしめているものは『絵』であるということ。
大事なのは絵によるキャラクターであり世界観であり、
ストーリーはなくてもいいらしい。
重要なのはキャラクターであってストーリーではない、
これは、漫画を描く上で絶対に忘れてはいけない鉄則です(P.260)
ストーリー中心の漫画は『王道』ではないというのだ。
お話だけなら、それは小説でいいのだから。
ところが荒木さんは、
絵があれば成り立つ漫画でも『起承転結』という基本は必要だという。
なぜなら、キャラクターという絵を成立させるためには、
キャラクターに『エピソード』を与えなければならないからで、
このエピソードがストーリーということになる。
この本には書いてないが、この場合のストーリーは、
だから視覚的なものがベストなのだろう。
絵に描いて初めて面白くなるエピソード。
それは、漫画家の絵でどうしても見てみたい場面に違いない。
漫画の読者が求めるお話は『絵的に面白い』ものなのだ。
だからストーリー中心の漫画は『絵による小説』であり、
漫画の王道ではないという。
私は荒木さんのこの考えを強く支持する。
漫画は文章で読む面白さとは違うということ。
当然、人気があるからといって、
簡単にテレビドラマになるものも『王道』ではないだろう。
生身の役者に演じられる漫画のキャラクターは、
漫画の絵として失敗していると言ったら言い過ぎだろうか?
漫画家にしか描けない漫画の絵は、
役者には演じられないのが本来だろうと私は思う。
私は荒木漫画は生理的に合わないのだけれど、
荒木さんの考えにはとても共感できた。
絵を描くのに夢中で、お話作りの勉強をしない漫画家志望者もいると聞くが、
そもそも漫画のストーリーというのは、
小説のそれとは本質的に違うということがこの本から強く感じられる。
ストーリー中心の漫画は王道ではなくとも漫画であることに違いはない。
しかし、せっかく漫画を描くのであれば、
知恵を絞って『絵的に面白いお話』を考える方がいい。
漫画のお話は、漫画の絵以外では表現できないという基本を忘れないためにも、
漫画家志望者は一読すべき!
趣味で漫画を描く人にも参考になる秘策がたくさん載っていてお買い得です♪
漫画家志望者(趣味で描く人も)で購入を検討中の方は、
荒木さんの以下の言葉が参考になると思う。
誠実に描いていなければ、いくらごまかしても、読者は見抜くと思います(P.186)
そもそも、絵を雑に描くこと自体がダメでしょう。
プロである以上、手抜きの絵を描いてはいけませんし、
その手抜きをごまかそうとするなど言語道断だと思います(P.187)
自分が興味を持っていて、自分の心の深いところや人生に関わるものであれば、
仮にそれが暗いテーマで売れそうにないと思えたとしても、
やはりそれを描こうと決意すべきだと考えます(P.223~224)
基本中の基本は、
その漫画の中で自分が伝えたい気持ちを素直に伝えるよう心がける、
それに尽きるのではないでしょうか(P.235)
人から褒められてもそれを本気にはしません。
褒められてのびるのは子供だけで、
むしろミスや失敗から次の作品へのヒントをもらい、
描き続けられるのだと思います(P.245~246)
これらの言葉が心にグッと来る人は、購入して損はないと思う。
読み物としても荒木さんがいかに真面目な人かを知る上でも貴重な一冊。
強くお勧めします!
ちなみに、
本書で紹介されている荒木さんの短編集『岸辺露伴は動かない』を読んだ。
その中の『富豪村』は面白かった♪
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