岩井田治行の『くまのアクセス上手♪』

興味を持った本と映画のレビューとイラストを描く♪

デ・パルマの『アンタッチャブル』を観て怒る♪

 

 

アンタッチャブル

THE UNTOUCHABLES

1987年アメリカ/ブライアン・デ・パルマ監督作品

★★★★観始めると止まらない

 

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VHSビデオを整理していたら埃をかぶって現れた。

デ・パルマの『アンタッチャブル

どんなだっけと観始めたら、思わず最後まで観入ってしまった♪

面白い。とてもよく出来ているのだ。

内容を知っていても引き込まれる作品は少ない。

この作品は、そういう数少ない1本だと思う。

 

子どもの頃、

TVの『アンタッチャブル』をリアルタイムで観ていた私にとって、

エリオット・ネスは特別の存在だった。

つまり、ヒーローである。

 

しかし、実際のエリオット・ネスは

私が思っていたようなかっこいい法の番人ではなかったらしい。

ネスの武勇伝が本人の口から大袈裟に語られたフィクションで、

仕事中毒で離婚歴があり、アルコール依存症だったとか。

後年、そういう話を聞き複雑な気持ちになった。

 

TVドラマはちょっと恐かったという印象がある。

大人向けであり、すごくリアルなドラマだったと記憶している。

禁酒法という言葉もこのドラマで覚えたっけ♪

 

連邦禁酒法時代には、

アメリカ国民がお酒を飲むため国境を越えたとか(そりゃ越えるわな♪)

カナダ、メキシコの蒸留所と醸造所が栄えたとか(そりゃ栄えるわな♪)

実に人間的なリアクションが起った時代である♪

 

アル・カポネというギャングの登場も時代の要請だったのだろう。

しかしよくやったな、禁酒法なんて!

禁止されたのは繁華街での飲酒で、家では飲めたらしいけど、

我慢大会のような法律である♪

 

エリオット・ネスが語った武勇伝はなかったとしても、

映画は娯楽であり作り物なのだから、

ネスさんが語ったという武勇伝をうんと誇張してこそ面白い♪

この映画はネスVSカポネという空想大活劇である。

 

でもって…

そのネスさんとはどんな御仁だったかというと…

こんな人だった↓

 

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アル中とは思えない良い男ではないか♪

人一倍正義感は強かったらしいが、かなり神経質そうに見える。

この絵を描くためネットでネスさんの画像を探すと…

なんと、意外と少ない!

 

ドラマや映画で描かれたエリオット・ネスの武勇伝が本当なら、

もっと大量の写真が残っているはずだが…

やはり創られたヒーローなのか?

 

そういうネスの人間的な弱さには共感できるのだが、

ケビン・コスナーが演じたネスは善人すぎる。

つまり、映画用のヒーローである。

 

コスナーのエリオット・ネスは線が細い所が似ている。

細いがこの男、やるときにはやる!という感じが良くでている。

コスナーの当たり役のひとつかと思える。

実際のネスは、やるときにやったが、武勇伝はなかった。

 

★★

この架空のヒーローに敵対するのがアル・カポネだ。

昔の少年マンガには、このカポネ似のギャングのボスがよく登場した。

手塚マンガにも何度か出演している。

 

ネスに比べると、カポネの写真は結構残っている。

ギャングのボスというよりシカゴの名士という感じだ。

実際、ネスよりも有名人だったのだろう。

どんな人物だったかというと、こんな男だった↓

 

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 とても描きやすいので助かる♪

(もっとちゃんと描きなさいよ!)

 

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いかにもギャングのボスという風格と人なつこさが同居した人物だが、

実際は、裏で殺しを指示していたという恐ろしい男だ。

春風亭柳昇にも見えるのは、私のデッサン力のなせる技か?)

 

これを演じるのはデニーロしかいなかった!

デニーロに頼めばムチャをやってくれるだろうと♪

その期待に答えてデニーロがやってくれた。

あそこまでやらないと気が済まないところがデニーロらしくて笑える♪

間違いなく、デニーロは自分が主役のつもりだろう♪

 

この2人の脇を固めるのが、

ショーン・コネリーと初々しいアンディ・ガルシアだ。

 

コネリーの存在感がこの作品の唯一の奥行きとなっている。

一番おいしい役かも♪

もうボンドのかけらもなくなった外見が立派である。

おいしいといえば、アンディ・ガルシアもそうだ。

ネスの頼もしいパートナーであり続けてほしいという観客の気持ちを

ラストの別れのシーンが引き裂く。泣かせるぜ!

 

会計の専門家役のチャールズ・マーティン・スミスもうまい配役で、

かっこ良さの中に変化をつけた。

殺し屋フランク・ニッティ役のビリー・ドラゴは不気味でGOOD!

そして、エンニオ・モリコーネの音楽が抜群に良い♪

 

★★★

これらの役者を演出したのが、ブライアン・デ・パルマである。

サスペンスの名手と呼ばれるハリウッドの才人だが、

重厚な人間ドラマより技巧に走る傾向がある。

ヒッチコックもそうだが技巧はサスペンス向きなのだ。

描かれる人間は物語の駒にすぎない。

何を描くかより、どう描くかに重点が置かれる。

 

そういう監督に勧善懲悪の空想活劇が撮れるのか?

という危惧は不要だった。

引き出しが多いというか器用というか、撮れるのだった♪

 

ネスの家族の描写やコネリーとの出会いのエピソード、

ネスが徐々に部下の信頼を得て行く過程など

実にうまく演出していてわかりやすい。

いかにもハリウッド映画である。

 

しかし、

デ・パルマの映画は現実味が薄く、この作品も例外ではない。

リアリティよりテクニックが勝って…

 

 

え~い、腹が立ってきた~!

 

こんなん、まじめにレビュー書いとる場合ちゃうで~!

ホンマ、腹立つわ~! 何が腹立つって

デ・パルマファンの間では語り草になっとる駅での銃撃戦や!

そら、初めて観たときは『かっこええな~♪』思たがな。

けど今観ると、あの乳母車はなんやねん!

 

古典映画に対するオマージュ言うけど、なくてもええやろ!

それまでの話の流れから、あの場面だけ浮いてるやん!

 

ネスがカポネの会計係を駅で待ち伏せる緊迫した場面や。

会計係が現れるのを階段上で見張るネス。

すると、階段下に一人の女性の姿が!

 

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トランクを2つ持ち、乳母車に赤ちゃんを乗せて階段に近づいて来る。

それを見たネスは、こ…こらなんとかせなアカンと焦りますよ!

親子を銃撃戦に巻き込んではいかん思うがな!

 

そんなこととはつゆ知らず…

やって来ましたおばはんは、階段の下で立ちどまります。

 

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でもって、まずトランクを床に置いて…

 

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乳母車を反転させ、階段の一段目に上げようとしますよ。

 

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ま、まぁ… ここまではなんとか我慢出来る。

問題はここからや!

 

 

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せやから、乳母車で階段はムリやて…

 

 

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あ…あのな~ おばはん…

 

 

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コラ! おばはん!

ええ加減にせえよ~!

 

旅行に行く前に考えとけよ! 赤ちゃんはおんぶが基本や!

おまえ、どう見てもネスの気を引くため、わざとやっとるやろ!

赤ちゃん背負えばええやん! 乳母車いらんがな~!

旅行カバン2つに乳母車に赤ちゃん乗せて、どこへ行く? 家出か?

計画立てろよ、旅立ちの前に!

 

つまり、面白いアイデアなのだが、あざとすぎてイライラする。

ああ、これがやりたかっただけなのね~と興醒めなのだ。

 

本当によく出来た映画は、そういうあざとさが見えないものだ。

映画は作り物だからリアリティなどなくてもいい。ウソでいい。

でも自然さがほしい。乳母車。不自然やろ! おんぶや!

 

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アンディはカッコよすぎ♪ おまえはスーパーマンか!

 

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赤ちゃんに罪はない!

デ・パルマの自己満足のために階段ころがされて可哀想や…

この坊や、今頃は35〜6のオッサンやな~♪

 

さて、この映画。

もう30年以上経とうというのに、鑑賞に耐えられるのはなぜか?

それはエリオット・ネスの挫折から始まる脚本である。

主人公が捜査ミスで世間の非難と嘲笑の的になるという社会的な屈辱から

どう立ち上がるかという再起の物語。

観客は冒頭からネスに感情移入せざるを得ない。がんばれネス!と。

アメリカ的だがとてもよく出来た上手い脚本なのだ。

 

しかし、技巧派のデ・パルマ映画の限界か、

よく出来ているが傑作には成り得ない。

これを傑作にするには余計なものを削除する必要がある。

そう、あの乳母車だ!

 

 映画『アンタッチャブル』の画像とCとDの画像を流用、編集しました

感謝!

 

 

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