岩井田治行の『くまのアクセス上手♪』

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正確なデッサンができると絵は上手くなるの?

 

 

デッサンって、どうよ?!
 

 

 

20代の頃、

絵の先輩からこう言われました。

 

デッサン力というのはね、

描く対象がそれらしく描けていればあるんだよ。

その力をどこまで磨くかは、本人の好き好きなんだ。

 

つまり人間を描いて人間に見える。犬を描いて犬に見えれば、

その絵には最低限のデッサン力がある。

必ずしも写真の様に正確な絵だけがデッサン力があるわけではない。

どんなに稚拙な絵でも

描く対象がそれと分かればそれでいい。

それ以上の技術を磨くかどうかは本人次第なんだ。

そう先輩は言いました。

 

当時、ちょうどアンドリュー・ワイエス展をみたばかりの私には、

この先輩の言葉は新鮮で衝撃的でした。

ワイエスの絵が草木の一本一本まで正確に描く

スーパーリアリズムだったからです。

 

私にはワイエスのような技術は一生無理だと

諦めていた時に聞いた先輩のデッサン論は驚きでした。

具体的には下の絵の通りです。

 

この2枚のライオンの絵を見て、

デッサン力があるのはどちらだと思いますか?

 

 



本物らしさがデッサン力のある証拠だとすれば1枚目です。

いかにもライオンだし、本物みたいですから。

 

しかし先輩に言わせると2枚ともデッサン力があります。

なぜならどちらもライオンだとわかるからです。

描いた対象が何かわかるのは、対象を描く力があるからです。

その力をデッサン力と言うならば、2枚ともデッサン力はあります。

どう見てもライオンですからね。

先輩は私にそう教えてくれました。

 

ただし「面白い絵(楽しい絵)はどちらですか?」という質問にすると、

答えは変わると思います

 

今でも描いていて、どこまで写実で描こうかと考えた時に、

この先輩の言葉を思い出します。

「岩井田くん、それは好き好きなんだよ」

 

子供の絵のようなタッチで完成しても

ワイエスのような超リアルな作風まで精進しても

どちらでもお好きなように。

デッサンとはそういうものだと先輩は教えてくれたのです。

 

この考えが正しいかどうかではなく、

一つの考え方として記憶にとどめておいてもいいと思います。

 

特に絵の初心者にはこの考え方は希望だと思うので。

 

 

絵の初心者はどうやってデッサンを身につければいいの?

 

趣味で絵を描きたいと言う人はいますが、

なかなかその一歩が踏み出せない人が多い。

「どうしてですか?」と聞くと必ず

「私は絵が下手だから」という答えが返ってきます。

 

絵が下手だから勉強して上手くなりたい。

でも下手だから無理だろうと尻込みしてしまうわけです。

その気持ち、よくわかります。

 

自分には伸び代がないと思う事に敢えて挑戦するには勇気がいる。

そんな勇気を持った人は滅多にいません。

 

でも、

そうやって尻込みしてしまう人には絵に対する思い込みがあります。

 

絵は上手くなければいけない。

上手い絵とはデッサン力のある絵のことだ。

デッサン力とは、対象を正確に本物らしく描く力である。

 

こう考えてしまうと、

自分にデッサン力がある! と自信を持てる人は少なくなる。

特に初心者の場合は。

 

逆にこう考えるのも自由です。

 

絵は上手くなくてもいい。

デッサン力とは、それらしく描く技術のことだ。

だからそれらしく描けていれば下手でもいい。

その絵が下手だと言う人は無視すればいい。

デッサン力の有無より描いていて楽しいかどうかが大切だ。

 

それでも初心者はこうは考えられません。

これはプロの考え方だからです。

つまり、ある程度の余裕がなければ言えないことなんです。

 

でも前述の先輩の言葉のように、

どこまでデッサン力を身につけるかは好き好きなんだ。

初心者はこう考えた方がハードルが低くなって気が楽です。

気が楽楽しいということがとても大事なんです。

 

絵を勉強する際に、

芸大に進学するのでない限り、石膏デッサンは必要ありません。

そもそも石膏デッサンは退屈です。

私は20代の頃、画材屋で石膏のデッサン像を買って

下宿の壁に設置して毎日描いていました。

 

でも正直つまんないのね。

スケッチブック片手に近所をスケッチする方が数倍面白い。

またはバスに乗って乗客をスケッチするとか。

バス内でのスケッチはよくやりました。

 

そういう『生きたデッサン』の方が面白いんですよ。

バスや電車内でのスケッチは最初はちょっと勇気がいりますが、

慣れると他人の視線は気にならなくなります。

 

でもどうしても人前でスケッチするのは恥ずかしいという方は

無理にやる必要はありません。楽しくないからです。

 

それより、スマホで乗客を撮って、

自宅に帰ってからスマホを見ながら描く方が落ち着いて描けます。

やりたくないことや向いてないことはやらない方がいい。

人にはそれぞれ向き不向きがありますから。

自分にあった勉強法を見つけることから始めるべきです。

勉強法は他人と違ってもいいのです。

 

 

挫折せずに 絵の勉強を続けるにはどうすればいいの?

 

習い事に挫折はつきものです。

挫折する理由は上達しないからです。

楽しく描くと言っても、そもそも上達しないと楽しくありません。

ここをどうクリアするかですね。

これはプロでも難しい難問です。

 

上手く描けないつまらない希望がない楽しくない や~めた!

プロもこういう経験をします。

どうしても上手く描けない時が必ずあります。

それをどう乗り切るか?

 

どう乗り切ってるんだろう、私は?

 

まず上手く描けない時は手を止めて考えます。

画集を見たりして何かヒントはないかと探します。

こういう時間は苦痛ですが耐えるしかありません。

 

ただプロはこういう状態に慣れていますから、

「あっ、また来たな」と思えるんです。

「大丈夫、必ず乗り越えられる。今までもそうだったから」

プロの脳はそう考えるように訓練されています。

ある意味自分を上手く騙すわけです。

 

「俺はできる! 根拠はないけど、なんとかなる

私はいつもそう考えます。

で、何とかなるんですね。不思議です

 

でも初心者はこうはいきません。

何とかなると思えるには場数を踏まなければなりません。

場数とは、つまり『修羅場』です。

 

何回修羅場を経験しているか。

プロは皆この修羅場を経験しています。

プロの仕事は修羅場の連続なんですよ、実際はね♪

 

素人にこの修羅場を経験しなさいというのは酷でしょう。

修羅場なんて知らない方が幸せですから♪

だから一般の方が絵を描き続けたいと思ったら、

これはもう『楽しむ♪』しかありません。

上手い下手ではなく、いかに楽しむかです。

 

プロはある程度の上手さを求められますが

この『上手さ』というのは実は落とし穴です。

 

一例を挙げます。

水彩画は数ある画材の中で一番難しい画材です。

習得するのにはそれなりの『時間』がかかります。

この『時間』をかけてもなかなか上達しないのが水彩技法です。

 

そうは言っても水彩技法は反復練習によって上達します。

一番早く到達する地点は『写実』だと思います。

水彩絵の具は『写真のように描く』のに適しているからです。

 

手先の器用な方なら『写真のように描く』地点にたどり着けます。

ここまで来られる人は結構います。

問題は『写真のように描く』技術を習得すると

みな同じに横一線に並んでしまうことなんです。

つまり、似たような絵になってしまうんですね。

 

そこからどう抜きん出るかという壁が待っています。

『写真のように描く』のは『個性』というより『技術』です。

この『技術』は反復練習によって身につきます。

時間はかかってもある程度は身につくと思います。

でもそこから先に行ける人は少数なんです。

 

写真のように描いているけど、誰の絵か一目でわかる。

そういう絵が描ける人は少ない。

油絵やアクリル画は専門外なので知りませんが

やはり同じではないでしょうか。

 

リアルには描けても個性的にはなかなか描けないものです。

絵を描く上で大事なことは『技術』より『個性』です。

その人しか描けない世界があるかどうか。

他人に真似できない自分だけの世界です。

 

この『自分だけの世界』を創るために必要なのが『技術』ですが、

それは目的ではなく、あくまで手段です。

水彩技法の練習をしていると、

いつの間にか技術の習得が目的になってしまい愕然とします。

 

技術は手段であって目的にはなり得ません。

水彩画を描いていていつもそう思います。

「ああ、こういう絵は誰でも描けるなぁ… ここを越えないとなぁ…」

私もそう思いながら今も試行錯誤を繰り返しています。

 

上手くなるために技術は必要ですが、そこには落とし穴がある。

技術的な進歩に惑わされないことが大事なんです。

 

ですから、

絵の初心者は最初から『上手さ』を求めない方がいいと思います。

上手さより楽しさを追求してください。

 

どうやったら絵が上手くなりますか?

という質問には『楽しんでください♪』と答えることにしています。

 

プロもこの『上手さ』という落とし穴に落ちないように工夫しています。

それが『敢えて下手に描く』というスタイルです。

意図的に下手に描ける人は実は上手いのです。

サーカスのピエロと同じですね。

 

道化師は観客の前で滑稽な演技を披露します。

玉乗りをしては失敗し、ブランコからは転げ落ちるのです。

これを本当にやったら大怪我をします。

道化師はきちんと受け身を取って転びます。つまり上手いのです。

 

絵を描く時もこういうスタイルの人がいます。

ある程度上手く描けるようになると上手さに興味がなくなるんですね。

このブログでも書きましたが、リスベート・ツヴェルガー女史がそうです。

 

彼女のデビュー作のデッサンは天才的なものがありました。

このデッサン力はどんどん進化して頂点まで行くと

今度は深化していきました。

つまり、上手いデッサンを消しにかかるというスタイルに変わるんです。

 

一見ツヴェルガーさんの絵じゃないと思うぐらい変化しました。

正確なデッサンを見せる絵から深みが増して

落ち着いた柔らかなタッチに変貌していきました。

上手く描くことに飽きてしまったんでしょうか。

 

そして深化した絵は何度見ても見飽きない不思議な力を持っています。

ものすごく成長したなぁと彼女の画集を見て思いました。

すごい境地に達したものだなぁとね。

 

絵の初心者がこの境地に達するのは無理ですから、

最初から上手さを求めない方がいいのです。

プロを目指すのでない限り『描く楽しさ』が最優先されるべきです。

それが私の考えです。

 

 

ではどうやって自分の世界を創ればいいの?

 

創作とはつまるところ『自分をどう表現するか』です。

どんなに上手くても自分でなくては意味がありません。

他人と違う自分の世界を表現する必要があります。

そもそもこれはプロでも難題なのです。

 

なぜなら、

ゼロから何かを作り上げることが人間には出来ないからです。

創作するには必ず土台が必要になります。

つまり何かをヒントにするわけです。

 

有名な話では、

シェークスピア作品はオリジナルではないというものがあります。

現存するシェークスピア作品には全て種本があるらしい。

ヒントになった元の作品があるようです。

 

シェークスピアの時代は今のような著作権はありませんでした。

あったらシェークスピアは訴えられていたかも

 

あの有名な『ロミオとジュリエット』もオリジナル作品ではなく、

『ナントカとナントカ』という元の作品があったらしい。

シェークスピアはその作品を翻案したのです。

しかし彼の作品の完成度があまりにも高かったため今に残った。

どうもそういうことらしい。

 

ちなみに『ロミオとジュリエット』の元になったお話にも

実はタネ本があったそうです。元の元があった

だからいったい誰が『ロミオとジュリエット』という悲劇を

最初に思いついたのかはわからないらしい。

口承(口伝え)の作品だったのでしょうね。

 

こう考えると創作とは『何かを参考にして初めて成立するもの』です。

つまり『真似る』から『学ぶ』わけです。

何かを学ぶためにはまずは模倣することから始めます。

 

絵ではこれを『模写』と言います。

模写すると何が学べるかというと、

その絵描きさんの筆使いや絵の具の塗り方などがわかるんです。

 

好きなマンガ家の絵を真似ると

そのマンガ家がペンやベタ、トーンをどう使っているかがわかります。

そうやって『真似る』ことから『学ぶ』わけです。

 

こうして真似ているとあることがわかります。

それは『どう描いても真似られない箇所がある』ということ。

人間には手グセというものがあります。

筆跡などがそうですが、絵も同じです。

 

同じ画材を使って描いても全く違った仕上がりになります。

どうして真似ているのにソックリに似ないのか?

理由は2つあります。

 

一つ目はただの『技術不足』です。

二つ目はその人の『個性』です。

似せて描こうとしてもソックリにならないのは、

その人が持つ個性が邪魔をするからです。

 

ですから、真似る時はこの個性を伸ばすのがいいのです。

ソックリに真似られないとガッカリするでしょうが、

ソックリに描けない部分に自分が出ているかもしれません。

ですからガッカリしないで、そこを伸ばす。

「ああ、自分はこう描くんだ」そう思った方がいい。

 

ソックリに描いて完成ではただの『真似』です。

真似しているのにどこか違う。

この『違う部分』がその人なんです。

この違う部分がたとえ下手でもいいから開き直る。

私はそうしています

 

上手くなくてもいいのです。

上手く描けても、それだけでは自分の世界は創れません。

逆に下手でも自分の世界は創れるんです。

そして下手なら下手を楽しむことです。

 

自分はこんなにも下手なんだ。

何て面白いんだろうと

(悟りやな、悟り

 

 

詰まる所、絵は下手でもええんかい?

 

いいと思います♪

少なくとも『鼻につく上手さ』より数段マシです。

初心者は上手く描こうとしないで、ひたすら楽しむこと。

「ああ、今日も絵が描ける! 楽しいなぁ♪♪」

これでいいと思います。

 

 

 

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