第三の男
THE THIRD MAN
1949年 イギリス/キャロル・リード監督作品
★★★★☆とても面白い
★
名作として名高い映画のひとつ。
お話的には、それほど面白いとは思わないのだが…
これはやはり後世に残る逸品、珍品だと思う。
非常に作為的なのだ。何もかもが!
まず、どう聞いてもこの映画音楽がスゴイ!
何がスゴイって、チターだかツィターだか知らんが、楽器がひとつ!
このひとつの楽器で最初から最後まで押し通すという暴挙!
どう考えても芸がない! バックにオーケストラを入れようとか、
少しはコーラスでも加えて変化をつけようなどという発想がない!
これほど『やんちゃな映画音楽』を私は他に知らない!
同じ曲がこれでもかとばかり全編に繰り返される!
たとえば、007映画の全編に
ジェームズ・ボンドのテーマが延々と響き渡る様を想像してほしい。
どう聞いてもうるさいし、飽きる。芸がないと感じるはずだ。
しかし『第三の男』では、これがなんとも心地よいから不思議~♪
アレンジはあるものの、基本的には『ハリー・ライムのテーマ』だけ。
これは映画音楽のプロには出来ない素人の発想である。
キャロル・リード監督に見いだされた貧乏なチター演奏者カラス。
このカラス氏を起用したリード監督の感性も粋なのだが、
映画音楽のルールを無視?したカラスの演奏が掘り出し物だった!
恐らくカラス氏は『映画音楽』の何たるかを理解していない。
ただひたすらに、己の楽器を演奏しているだけである。
それがよかった、スゴかった! 一世一代の一発芸なのだ!
この作品の続編が創られ、同じ曲が演奏されたら、くどいだけだろう。
この映画のためだけの最初で最後の演奏なのだ。
ロマンチックな場面では、優しく弦を弾き、
緊迫した場面では、弦を強く弾くというわかり易さと芸のなさ♪
しかしそれがいい。余計な事を一切しない。
全編、ハリー・ライムのテーマとそのアレンジのみという見事な一発芸!
しかも、サスペンス映画に似合わないメロディラインの連続!
映画を観ているのか、チター演奏を聞いているのかわからない!
演奏のついでに映像があるような錯覚にさえなる。
しかし、この映画にはこの音楽以外あり得ない。
そう思わせる説得力に脱帽!
★★
規格外なのは音楽だけではない。白黒の映像がまた凝りに凝っている。
ここまでやるのかというぐらいの凝りようである。
生理的に、この『作為』を受け付けない人もいるだろう。
それぐらい、これでもかと『作り込む』作業の連続なのだ。
カメラを斜めにセットすると不安定感が出るというが、
この斜めの構図がやたらに多い、多すぎる。
果たしてこのシーンでカメラを斜めにする必要があるのか?
という場面までもが斜めなのである。酔ってくるぜ!
この斜めの構図と光と影を効果的に使い、
モノクロ映画だからこそ出来る映像を創り出している。
モノクロ世界というのは、現実には存在しないから面白いのだ。
これをさっそく真似たのが、手塚御大であった。
『鉄腕アトム』には、この映画によく似たシーンが登場する。
この下水道での活劇なんか、この映画の記憶で描いてるとしか思えない。
それほど真似たくなる絵画的な映像なのである。
手塚先生はこの映画をワクワクしながら何度も観たのだろう。
この映画の映像は、われわれが日常生活で見ているものとはちがう。
映画用に作られた視点、構図である。
だから観ていると、ああなるほどそう映せばそう観えるのかという
作り物を見るおもしろさ、驚きがあるのだ。
すべては映像のマジック、ウソである。このウソがアナログのスゴさだ!
CG でどんなに本物らしく創っても創れない。
人間が現場でカメラを構えて初めて捉える事の出来る映像である。
人工の光と影が随所にある。撮影が楽しそうだ♪
観客を物語に没頭させるための計算された演出。
監督に演出されるまま、観客はこの世界を体験する。
有名なラストシーンも現実にはあり得ないだろう。
女が歩いて来る。男がそれを前方で待っている。
女が自分に何らかのアクションをするだろうと男は期待するが…
女はそのまま男の前を無言で通り過ぎる。
こんなに真っすぐ歩いて来れるのか? 少しは避けるだろうと。
こんなにハッキリとシカトできるのか? 少しは見ろよ、動揺しろよと。
しかし、これでいいのだ。とてもわかりやすい。
ああ、相当嫌われたなと観客は納得するベタな演出。歴史に残った♪
このシーンも手塚センセは『38度線上の怪物』で、そのままパクっている。
どう見てもパクリ以外の何ものでもない。
厚顔無恥と言うか無邪気と言うか… この柔軟性が日本マンガの基礎を創った。
お話が面白いというより、この映像の表現方法に影響力がある。
この映画を観てハッ!とした人はたくさんいるはずだ。
そういう発見、発明性に満ちた映像なのである。
だから…
お話なんかどうでもいいのだ(いいことあるかい!)
友人が何をやってたのか? 第三の男が誰なのか?(誰なんや?)
そんなこと気にならないのだ(少しは気にしろ!)
前代未聞の作りもの映画。とっても面白い♪
★ネット上の『第三の男』の画像と『手塚先生のマンガ』を流用・加工させて戴きました 感謝!★
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