岩井田治行の『くまのアクセス上手♪』

興味を持った本と映画のレビューとイラストを描く♪

おフランス映画の意外な掘り出し物♪

 

ボン・ボヤージュ
~家族旅行は大暴走〜

 

2016年 おフランス/ニコラ・ブナム監督作品

満足度 ★★★★ 新機軸かな♪

 

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おフランスのコメディは今ひとつパンチがなく興味を持てない。

たまたまテレビでやってたので録画したが

観る気が起こらず、数日間放置。

どうせ家族がバカンス先で様々なトラブルを起こす様を

早口のおフランス語でまくし立てるというパターンだろう。

でもせっかく録画したのに観ないで消すのもなんだし…

出だしの10分だけ観て消そうと思い観始めた。

 

 

♥︎

パリに住む平凡なフランス人一家が夏のバカンスに出かける。

出かける気満々なのは一家の長だけ。

2人の子供(姉と弟)は生意気盛りで反抗的。

妻はお腹に3人目を身ごもり、動くのが億劫そうだ。

そこへ旦那の父親が割り込んで、合計5人で海へと繰り出す。

この父親がトラブルメーカーらしく出がけにひと騒動。

一家は旦那が最近買ったばかりの最新テクノ満載の新車に乗り込む。

途中のドライブインで、母親に置き去りにされた若い女性を拾い、

一路海を目指すのであった。

 

とまあ、こんな調子で登場人物が揃う。

この5人と拾った女が目的地の海で大暴走するという定番コメディ。

やはりつまらんな、消そうかなと思っていると…

 

最新テクノ満載車の調子が…

この車、色っぽい女性の声で色々指示を出してくれるのだが、

なんかおかしいのだ。一体どうしたの?

 

ここからこの映画は目が離せなくなる。

なんと、最新テクノ車が故障したらしい。

それもよりによってブレーキが!

そう、ブレーキが効かない。

つまり暴走を始める。

 

えっ?

大暴走って、文字通りの暴走なのと目が点になる。

 

パニック映画はたくさんある。

車だけでなく、列車が止まらない。飛行機に爆弾が!

そういうハラハラドキドキ映画はごまんとあるが、

それらは常に生死をかけたシリアスな作品だった。

 

ところがこの映画はコメディなのである。

車が時速100キロ以上で暴走を始め、ブレーキが効かない。

どう考えても笑い事ではない。

にも関わらず、これはコメディなのだ。

 

悲劇と喜劇は紙一重というが、まさにそういう状況。

人間が命惜しさに必死になる姿にはどこかおかしさが漂う。

笑い事ではないのにおかしい。

そして最新テクノロジー満載車の暴走という皮肉。

 

ずいぶん昔に聞いた最新コンピュータ搭載の戦闘機の話を思い出す。

何しろコンピュータである。

敵機をロックして銃撃、ミサイル発射などお手の物。

コンピュータに機体をロックされたら逃げられない。

ところが、

敵機もコンピュータ搭載の戦闘機なので、ロック解除機能がある。

逆にこちらの機体をロックされてしまうが、こちらもロックを解除。

 

こうしているといつまで経ってもお互いを撃ち落せない。

ではどうすればいいかというと…

肉眼で目視できる距離まで近づき、手動で撃ち落とすのが確実という。

なんのための最新コンピュータかわからない。

 

この映画はまさにそれで、

最新テクノが暴走すると、止める手段はアナログしかないのである。

ではどうやってこの暴走車を止めるのか?

そこがこの映画のクライマックスだ。

 

 ♥︎♥︎

これまでのコメディ映画でも、

主人公が絶体絶命のピンチを切り抜けるシーンに笑いがあった。

獰猛なライオンに追われるとか、

スカイダイビングでパラシュートが開かないとか、

バッグの中に爆弾が入ってるとか etc etc…

 

こういうトンデモナイ状況は笑いに変換される。

非日常的だからおかしいのだ。

しかしあくまで映画の中のワンシーンに過ぎない。

 

ところがこのおフランス映画は、

ワンシーンのはずの絶体絶命のピンチが延々と続く。

まずブレーキが効かなくなり、さてお次のトラブルは?

というのではない。

最初に効かなくなったブレーキは最後まで効かない。

止まらないという状況だけでラストまで突っ走るのだ!

簡単にいうと、スピルバーグ出世作『激突!』のコメディ版。

そう言うと褒め過ぎだろうか?

 

とにかくブレーキの効かなくなった車が延々と暴走する。

そこに白バイ警官やら余計なものが色々と加わり、

車はひたすら高速道路を暴走する。止まらない。

それどころかスピードが増していく!

数キロ先では大渋滞が発生している!

暴走車はその渋滞に向かってひた走る。走る走る。

止まらないのだ!

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おフランス語も止まらない。

とにかく話し続ける。危機感なしに。

原題の『A FOND』は直訳で『徹底的に』という意味らしい。

そう、まさに徹底的にパニックが加速していく。笑いながら♪

こういう脚本はありそうでなかったと思う。

前半に張られた伏線は最後に全て回収される。

最後まで無駄がない。お見事です!

 

♥︎♥︎♥︎

お笑いとパニックという組み合わせを

ここまでシンプルに面白く演出できるブナム監督は才人だろう。

まだるっこしいおフランスのコメディを想像して観ると裏切られる。

一気呵成に最後まで釘付けになると思う。

 

緊急事態宣言延長の最中、この映画も緊急事態である。

お部屋の中でおヒマな人はぜひどうぞ!

 

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ネット上の『ボン・ボヤージュ』の画像を流用し、加工させて戴きました 感謝!

 

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