岩井田治行の『くまのアクセス上手♪』

興味を持った本と映画のレビューとイラストを描く♪

『暴走車』という面白スペイン映画♪

 

暴走車 ランナウェイカ

EL DESCONOCIDO/RETRIBUTION

2015年 スペイン/ダニ・デ・ラ・トレ監督作品

満足度★★★★☆

 

f:id:kumajouz:20190817022736j:plain
 

日本ではあまり馴染みがないスペイン映画。

だがスペイン映画は、時にものすごくクオリティの高い作品が公開される。

アレハンドロ・アメナーバル監督の『アザーズ』なんか面白かった。

その他にも非常にユニークな作品が多く日本でも公開されている。

どちらかというと芸術的な作風が多いようだが、娯楽作品もある。

この映画はその中のひとつだろう。

邦題がやや的外れなタイトルだが、原題は『見知らぬ人』である。

英語のタイトルの意味は『天罰』とか『報い』という意味だ。

こちらの方が内容にふさわしい。

『見知らぬ人の報い』って、どんな映画なの?

なんの前知識もなく観た。でもって、面白かった!!

 

主人公はカルロスという中年男。銀行の支店長をしている。

冒頭でカルロスが出勤する朝の様子が描かれる。

カルロスは支店長を任されるだけあってやり手のビジネスマンのようだ。

しかし、カルロスの家族はバラバラらしい。

奥さんは朝からイライラしている。中学生らしき上の娘は思春期の生意気盛り。

下の弟は小学生だろうか、まだあどけないが、姉とは仲が悪い。

 

カルロスが子どもたちを車に乗せ、学校へ向かおうとすると、

妻が慌てて車へ駆け寄って来て叫ぶ。

『あたしが送るんじゃなかったの!』と凄い剣幕だ。

『予定が変わったから俺が送る!』とカルロス。

 

こんな感じで、この夫婦の不和が描かれるが、

仲の良い家族ではないというこの伏線が後に生きて来るという仕掛け。

 

後にと言ってもこの後すぐに状況は緊迫する。

原題の『見知らぬ人』から携帯に電話がかかってくる。

『お前の車の座席の下に爆弾を仕掛けた。少しでも席を立てば爆発する!

死にたくなければ、お前の全財産をよこせ!』と。

つまり、そういう映画である。

よくあるパターンだが、どうなるのと眼が離せなくなる。

 

キアヌ・リーヴス主演の『スピード』という映画があった。

爆弾魔とSWATの息詰まる攻防戦がハラハラドキドキの佳作だった。

爆弾というのは映画ではよく使われるし、新鮮味はない。

新鮮味がなくても、仕掛けられた爆弾がどうなるかに興味のない人はいない。

作り方次第では、こんなにハラハラする題材もないだろう。

 

ハリウッド映画でよく使う題材をスペイン映画がどう料理するのか。

爆弾を仕掛けられた父親と子どもは意志の疎通ができていない。

父親は仕事のことに夢中で妻のことを何も知らないらしい。

娘と息子にもあまり関心のない仕事人間のようだ。

とにかく家族がバラバラなのである。

危機に瀕して一致団結するような家族じゃない。

そんな親子の乗る車に爆弾である。さあどうするカルロス!

 

親子でこの難局を乗り切る前にやらねばならないことがあるんじゃないか?

妻のことをもっと理解してやれば良かった。

娘と息子にもっと関心を持っておけば良かった。

そんなことをこの際考えてももう遅いのだ。

 

そ~っと運転座席の下に手を伸ばすと… あった!

何やら爆弾らしきものが。イタズラではない。

どうやら本当らしい!

 

ここまでの展開で観客はこの映画に呑み込まれるだろう。

見慣れたハリウッド映画とは質感が違う。

爆弾が仕掛けられるというありがちな題材でも雰囲気が違うのだ。

全てを理解した父親カルロスは2人の子どもを必死に守ろうとするが、

普段から意志の疎通に欠けている親子だ。

 

まず、姉が言うことを聞かずヒステリックに父親を責める。

『何が起きてるの? ハッキリ言ってよ!』

ハッキリ言えば子どもたちはパニックになるから言えないのだ。

『お願いだから、パパの言うことを聞いてくれ! 頼むから!』

娘を説得しようとすればするほど、娘は反抗的になる。

この父親はいつも自分中心に生きてきたのだろう。

だから肝心なときに信用されない。

 

そこへもう一本の電話がかかる。カルロスの部下からだ。

この部下がなぜかヒステリックに叫ぶのである。

 

理由はすぐにわかった。

『ボス! 今おかしな電話がかかってきて、この車に爆弾を仕掛けたと!』

『えっ! お前の車にも!!』

 

もうめちゃくちゃである。

娘ばかりか部下までもがカルロスに説明を求めて来る。

『一体何が起っているんですか!!』

何が起ってるって… だから爆弾が私とお前の車の座席の下に…

本物らしい。だから動いてはいけない。落ち着くんだ!

この部下は妻と共に車に乗っている。この女房が説明を求めて来る。

『いいかげんにしてよ、一体何がどうなってるのよ!』

すると爆弾魔が電話口で叫ぶ。

『うるさい! とにかくみんなを黙らせろ!』

 

この爆弾魔はどうやら素人らしい。言動がプロの犯罪者ではない。

爆弾を仕掛けるのはこれが初めてらしい。

仕掛ける方も仕掛けられた方も初体験なのだ。

爆弾を仕掛けた方も事態が思うようにいかないことにイライラして叫び出す。

もう全員がパニックなのである。

爆弾というよくある題材でもこういうシナリオ、演出は珍しい。

そこがこの映画の肝となる面白さだ。

物語は警察と爆弾処理班の登場でさらにエスカレートしていく。

 

この映画は全編がロケで撮影されている。

C Gを使っているとしてもわからない。

アメリカ映画とは違うヨーロッパの空気感がある。

ひと味違った風景が独特の雰囲気を醸し出しているからだ。

 

観客は初めから事態を把握しているので、カルロス一家にイライラする。

特に上の娘だ。なぜパパの言うことを聞かないのかと。

途中からこのサスペンスに参加するカルロスの妻もヒステリックだ。

まずカルロスの話を聞こうとしない。

協力が必要になったときでさえ、この妻は冷静ではいられない。

こういう噛み合わない家族関係に観客は苛つくだろうが、

そこがこの脚本の狙いである。

 

ホラー映画によくある、行っては行けない場所へ向かうヒロイン。

どうしてそこへ行くかなぁというところへ行き怖い目に遭う。

開けてはいけない扉を開ける主人公にハラハラしたことはないだろうか?

この映画の脚本は、そこら辺を心憎いまでに掌握している。

ある意味、ズルくて意地悪な脚本だ。

しかし、小気味よい疾走感があるので引き込まれる。

 

爆弾処理班のリーダーは女性である。

百戦錬磨の面構えの女性リーダーが登場する辺りから緊迫感が増す。

そして徐々にバラバラだった家族が団結するようになる。

さらに爆弾犯人の狙いが明らかになるにつれ、

英語タイトルの『報い』という意味がわかってくるのだ。

 

この手の映画の定番である『カーチェイス』も迫力がある。

スペイン映画のサスペンスアクションは侮れない。

いつの間にかカルロスの車は警察の狙撃班に取り囲まれてしまう!

いったいどうなるカルロス一家! いったいどうなる座席下の爆弾!

いったいどうなる娘と息子!

 

DVDが出ているので興味のある方はご覧下さい。

イラツキながらも楽しめること間違いなし!

 

 

★ネット上の『暴走車』の画像を流用・加工させて戴きました 感謝!★

 

岩井田治行コミック  にほんブログ村/映画評論・レビュー