春から夏、やがて冬
歌野晶午 文春文庫 ★★★★ これは切ない やり切れない
昔から荒唐無稽でちょっと不思議なお話が大好物。
不思議といっても異世界ではなく、
現代を舞台に不思議なことが起るドラマにワクワクする。
その意味ではミステリーも『不思議物』と言えるかもしれない。
いわゆる『犯人探し』という本格推理に興味はないが、
このちょっと不思議な感覚を味わえるという意味で、
ミステリーに惹きつけられるのだと思う。
♥
『葉桜の季節に君を想うということ』で歌野晶午ワールドに引き込まれた。
ちょっと珍しい感動だった。
この本は2冊目の歌野本。読後感は『やはり期待通り面白かった!』である。
名探偵や刑事が登場しなくても、密室トリックなどなくても、
謎と殺人を含むドラマをミステリーと呼ぶなら、
本作も十分にミステリーである。
スーパーの保安部長平田誠は、
ある日、末永ますみという若い女性を万引きの現行犯として捕える。
いつもは万引き犯に厳しい平田が、この女の子にだけ妙に優しく振るまい、
警察に通報もせず解放する。
平田が末永ますみを許した理由は、調書に書かれた彼女の誕生日だった。
後日、平田はこの末永ますみにつきまとわれるようになるが…
この平田誠と万引き犯末永ますみを中心に物語が動き出す。
♥♥
『葉桜の季節に~』を読んだとき感心したのはトリックではなく、
ドラマで扱われる題材の方だった。
それは『悪徳商法』であり、本作では『万引き』である。
どちらもわれわれの日常にある身近なものだ。
こういう日常の扱いがとてもスリリングで、
どうなるのだろう? と引き込まれずにはいられない。
うまいなぁ~と感心するのだ。
『葉桜の季節に~』より短い本作は、
それでも読み応えがあり、読後に切ない余韻を残す。
クライマックスで、ちょっと都合がいい展開だなと思った矢先、
最終章で納得させられた。
これが真実なら… 十分あり得るかもと。
決して読んでいて楽しい物語ではない。
とにかく辛かった。
末永ますみの純情がひたすら悲しく、哀れであった。
こういう物語を多くの人に勧めていいものかとも思うが…
サクサク読めるのでお勧めします♪
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