岩井田治行の『くまのアクセス上手♪』

興味を持った本と映画のレビューとイラストを描く♪

意外に読まれていないヒッチコック映画の原作『鳥』を読む♪(2)

 

鳥 デュ・モーリア傑作集

ダフネ・デュ・モーリア 創元推理文庫 ★★★★

 

『番(つがい) The Old Man』

さて、このレビューの目玉は実はこれである。

デュ・モーリアとは実にこういう作家なのかと感動した作品で、

久しぶりにレビューを書く気にさせてくれた逸品なのだ。

日本語にしてわずか17ページの短編。

初読と再読では、全く違う作品に変貌する言葉のマジック!

騙し絵というのがあるが、これは騙し文だ。

ラスト4行で、それまで読んできた作品が全く別の作品に変わる。

狐につままれたのではと、もう一回最初から読み直すと…

あら不思議! そういうお話だったのねと驚くはず。

では一体どんなお話なのか?

 

原題が示すように、ある老人の物語である。

海辺近くの湖のそばに掘っ建て小屋を立てて住み着いた老夫婦。

物語の進行役の男の一人称で、この老夫婦の生活が淡々と語られる。

このじいさん、ただ者ではないらしい。

何か事情があって、文明社会から逃れてきたという感じなのだ。

前住んでいたところで、何かしたのかされたのか。

世間を恨んでいるようにも見える。

 

どういう暮らしぶりかというと、

誰とも付き合わず、湖や海で釣りをして過ごしている。

子どもが4人いて、娘が3人。男の子が1人。

男の子は一番年上だが、少し頭が足りない。

やがて3人の娘は独立するが、年上の男の子だけ自立できない。

そんな男の子に厳しく当たる老人の姿が語られていく。

そういう物語である。サスペンスもミステリーも何にもない。

ところがラストでこの物語が一変する! というトリックが待っているのだ。

 

これ以上は語れないので、ぜひ読んでほしい。

私がこの作品に惚れ込んだのは、実に映像的な作品だなぁと感心し、

これを子ども向けの絵本に出来たらどんなにすばらしいだろうと思ったからだ。

この短編を読んだ人はわかると思うが、絵本にするのは不可能に思える。

出来たとしても、完成まで数年はかかるだろう。

成功する(売れる)可能性は極めて少ない。

しかも私は今STAP風雲録』の執筆で忙しいのだ。

不可能と思える作品に貴重な人生を使っていいのかとも思うが、

何か、何か良い方法があるはずだ!

そういう想いが読後の私を支配して離れない。

 

この短編は、小説読みの方には小品、寸劇の類いで物足りないかもしれない。

この作品をここまで熱く語る人も少ないのではないだろうか。

しかし、宮沢賢治の童話が多くの画家を刺激するように、

『番』という短編は私の絵心を強く刺激するのである。

この短編を小説だけにしておくのはもったいない。

絵本という視覚的表現もありではないかと思わせるのだ。

フルカラーコミックという手もある♪

 

絵本というのは凝縮された表現手法だ。

『番』にはそれだけ凝縮された芳醇なイメージがある。

ざっとネットで調べたが、まだ誰もこの短編を絵本化していないようだ。

誰かが絵本化していたとしても私にしかできない方法があるはず。

デュ・モーリアの短編を絵本に翻案する。

それも子ども向け絵本として形にするというのがミソだ。

著作権などの面倒な問題は後回しでいい。

 

メインの画材は透明水彩がいいだろう。

水彩のボカシやにじみの技法をふんだんに使うのだ。

一人称の語り手は、湖のそばに住む野ネズミにしよう。

コマ割りと見開き画面を交互に使うのも面白いだろう。

全体は、ほとんどモノトーンに近いブルーで統一する。

 

ここら辺までは割と簡単にイメージが湧く。

壁となるのは、ラスト4行のトリックをどう視覚化するかだ。

絵で描いてしまえばネタがバレる。

初めからネタをバラし、トリックはなしという手もあるが、

やはり、ラストで世界が反転する方がいい。

モノトーンで進んできた物語(色合い)がラストでフルカラーになる。

このカラー画面が文におけるトリックになるにはどうすればいい?

水彩のボカシ技法で、物語の真相が徐々に形を成すというのはどうだろう。

考えるだけでひとりワクワクするのである♪

 

きっとすばらしい絵本になる。そう思うのは私だけかもしれないが…

非常に個人的な想いを吐露しているので、意味不明な方はスルーして♪

ただこの『番』という作品だけは一読をお勧めしたい。

 

この他に、

ゴーストストーリーと思わせて、実は悲しい恋の現実を描く『恋人』

公爵夫人のちょっとした浮気が皮肉な結末を迎える『写真家』

私の好みではないが、アマゾンレビューで大絶賛の『モンテ・ヴェリタ』

亡き妻の怨念に身も狂う夫の末路を描くホラー『林檎の木』

未来へタイムスリップした夫人を待っていた悲劇『裂けた時間』

幸福なはずの婦人はなぜ自殺したのか? その謎を探偵が追う『動機』

どれから読み始めても至福の時間が待っている。

さあ、本屋へ行こう!

 

f:id:kumajouz:20190723233828j:plain


 

岩井田治行コミックス  岩井田治行 Web動物原画展 

 にほんブログ村/読書日記