岩井田治行の『くまのアクセス上手♪』

興味を持った本と映画のレビューとイラストを描く♪

メイキングのドラキュラ(水彩画の制作♪)

 

透明水彩

ドラキュラ伯爵を描こう!
 

 

 

なぜか急にドラキュラが描きたくなった。

 

手塚先生の『ドン・ドラキュラ』というマンガの前書きに

「世の中が不景気だとドラキュラが流行り、

景気がいいとフランケンシュタインが流行る」

と書かれています。

 

吸血鬼ドラキュラ伯爵は、ブラム・ストーカーの創作ですが、

この人間の生き血を吸う怪人というのは、確かに明るいキャラではない。

まさに世の中が不景気になり、人々が希望を失っている時に、

その心の隙間に入り込む何か不穏なものを象徴しているような…

吸血鬼というのはそんなイメージなんでしょうね。

 

その吸血鬼を急に描きたくなるということは、

今の私が不景気だから…

ほっといてくれ!

私は今人生の中で、最高に絶好調なのだ!

 

まぁいい。

さて、ドラキュ伯爵である。

最初の映画化はアメリカ・ユニバーサル映画の『魔人ドラキュラ』

演じたのはベラ・ルゴシだ。

いかにも貴族という感じのドラキュラ伯爵だったが、

私が好きなのは、イギリスで制作された映画の方だ。

主演はクリストファー・リー氏である。

 

だから、リー氏の写真を元に描くことにします。

これである。

⬇︎

クリストファー・リーのドラキュラは好きなんですね、私

左のドラキュラの方がクリストファー・リーという感じです。

右側のドラキュラの写真は初めて見ました。

ちょっと珍しい画像ではないかと思いますが、

クリストファー・リー ドラキュラ』で検索すると出てきたので

クリストファー・リーで間違いないと思います。

 

まぁ、参考写真は誰でもいいんですけどね、

似顔絵を描くわけじゃないので。

 

左のドラキュラはちょっとベタなので右の画像を元に描きます。

では早速描いていきましょう。

まずは鉛筆で下描きをします。
写真をトレースすれば簡単ですが、フリーハンドで描きます。
その方が生々しい線になります。

 

STEP1

 

ざっと輪郭を描くだけでいいと思います。

あまり細かく描くと鉛筆線が邪魔で絵具で塗れなくなります。
仕上がりはあまり凝らずに、ごく普通のポートレートをイメージしています。

 

 

STEP2

 

背景と人物の肌を大雑把に塗ります。

この時、絵の具を筆とティッシュ

拭き取りながらハイライト部分を同時に描いていきます。

水彩画では通常、白い絵の具は使いません。

紙の地色(白)を残してハイライトを表現するのが基本です。

でも、意外と水彩の白絵の具を使うと不思議な感じになるので

私は時々使いますが、ここでは白絵の具は使わずに、

絵の具を拭き取ることで明るい部分を表現します。

 

 

STEP3

 

顔の影をさらに濃く塗り、髪の毛を描きます

写真を元に描いていますが、だんだん写真から離れていきます。

似顔絵ではないので、自分なりのドラキュラでいい。

つまり、クリストファー・リーに似てなくてもいいのです。

 

 

STEP4

 

何か、描いていてだんだん怖くなってきた!

こういう人には会いたくないなぁ…

 

口の形を調節します。続けて髪の毛を描きます。

髪の毛は仕上げにホワイトでハイライトを入れますが、

その前に水を含んだ細筆で髪の黒い部分を一本づつなぞって

絵の具を丁寧に拭き取り、毛の質感を出しておきます。

 

細筆で絵の具を拭き取る作業は結構大変ですが、

これが意外と楽しいのです♪

好きじゃないと出来ない作業ですね。

 

 

STEP5

 

写真に比べ、少し細長い顔になりましたが構いません。

どんどん描き進めます。

何だか背筋がゾワゾワしてきました。眼が怖いな。

 

顔の左側と髪の毛を少し描き足し、マントを描きます。

まずはざっと色を置いていきます。
これぐらいラフな時が『水彩』という感じで好きなんです。
水彩絵の具は、あまり何度も塗り重ねないで
できるだけ一発でサラッと描いた時が一番気分がいいのです♪

マントの部分ににじみとぼかしの技法を使っていますが、
あまり計算はせず、成り行き任せの水任せです。
偶然できる効果が水彩画の持ち味だと思います。

首元の結び目の部分をちょっと失敗しましたが構わずに進めます。

修正は後で。別に修正しなくてもいいと思います。

絵というのは、あまり完璧に仕上げない方がいいのです。

 

 

STEP6

 

黒いマントをさらに濃い色で塗り、写真にはない口元の血を創作します。

まゆと眼を完成させます。

目は写真より大きめに描いています。

目尻の下と鼻筋に濃い陰影を入れます。

これでほぼ9割は完成です。

クリストファー・リー氏には似ていませんが

おどろおどろしい感じが出たので、このまま仕上げます。

 

 

STEP7

 

背景にスパッタリング(筆につけた絵の具を弾く)技法で

血しぶきを演出して、さらにおどろおどろしい感じを出します。

細部を色鉛筆で仕上げたら完成です。

うわっ! なんだか夢に出てきそうで怖い…

 

もっと描こうと思えばいくらでも描けますが

キリがないので適当な所で筆を置くのがコツです。

 

前にも書きましたが、

絵は完璧に仕上げない方がいいと思います。

コンピュータで絵が描けるというのは最初こそ感動的でしたが、

やっているうちに、いくらでも修正ができることがわかり、

だんだん興味をなくしていきました。

 

Photoshopという画像ソフトには

デフォルトで50段階、最大で1000段階ぐらい前に戻って修正できる

ヒストリー機能があり、最初は驚きました。便利だなぁと。

 

そのうちに、いつになっても終わらないことに気づき、

こらアカンわ! と思うようになりました。

いくらでも修正できると、いつになっても諦めがつかないのです。

で、パソコンでの作画にだんだん飽きてきました。

今は、創作のほぼ9割をアナログで描いています。

 

人生も同じで、諦めが肝心です。

もし人生を1000段階も過去に遡り、やり直せたらどうなるでしょうね。

最初は幸福感で一杯になるかもしれない。

 

受験の失敗も就職の失敗も失恋さえもやり直せる。

あの時ああしていれば良かったとか、

あんなことしなければ良かったなんて後悔しないで済むでしょう。

 

何度でもやり直せるとしたら

それこそ完璧な人生を送れるかもしれません。

 

でもね、後悔のない人生が本当に幸せなんでしょうかね?

私だってやり直したいことは山ほどあります。

あんな仕事を受けるんじゃなかったなんてのはね、

もう山のようにあるわけです。

なぜ断らなかったんだろうって、今でもすごく後悔している。

 

あんな編集者に出会ったのが間違いだった。

過去に遡って別の編集者に担当を代えてもらえたら、

どれだけいい仕事ができただろう… なんて、

今でも涙が出ます。

まぁ、向こうもそう思ってるでしょうね。

あんなイラストレーターに頼まなければ良かったって。

お互い様かな

 

でも人生は前にしか進みません。後戻りはできないのです。

だからどんなに後悔しても諦めるしかありません。

思うと、あの判断は間違いだったとわかるけど、

あの時は、考えて考えて考え抜いて

最善の策だと信じて行動したのだから諦めようと。

 

その判断が実に浅はかだったとわかるのは今だからです。

その時はわからなかった。

それがその時の自分の精一杯だったのだから仕方ない。

諦めて前に進もうって。

 

だからね、

ヒストリーなんて便利な機能を使っちゃダメなんです。

いつになっても仕事が終わらない。

もう延々と直して直してキリがない。

 

そこへいくと手描きは違う。

私の右手にヒストリーなんて機能はない!

あってたまるか!

 

もうね、失敗したら最初から描き直すの。

泣きながらでも描き直す。それしかないの。

特に水彩画は画材の中で一番難しいのだから。

 

水彩絵の具というのは、小学生でも使える。

有名なのは『さくら水彩絵の具 12色』でしょうね。

この絵の具と画用紙と筆と水さえあれば誰でも絵が描けます。

それほど手軽に手に入る画材が水彩絵の具ですが、

数ある画材の中で習得が一番難しいのが水彩絵の具なんです。

 

なぜかというと理由は簡単。

水彩画とは読んで字の如く、水で彩る技法だからです。

大体、絵の具が2~3割で、後は全部水で描きます。

 

つまり水彩画とは、水をコントロールして描く絵なんです。

ところが、水という自然は人間の言うことなんか聞いてくれません。

にじみやぼかしという水彩画の基本技法でさえ、

絶対に完璧にはできません。

 

人間ごときに水という自然はコントロールできないんです。

「私は出来る!」と豪語する奴。ハイ、手を上げて!

あのね、アンタ傲慢ですよ。

たかだか人間ごときに自然はコントロールされないですから。

 

だから他人の水彩画をよく見ると、必ずどこか失敗しています。

ただプロはそれをうまく誤魔化すテクニックを持っているので、

素人にはわからないだけです。

プロが見るとね、あっ、ここ失敗してるってわかりますよ。

 

だから水彩画を習得しようと思ったら、

まず水と仲良くならなければなりません。

それは力づくで水をコントロールしようとしないことです。

 

もうにじみなんてね、勝手に滲んで下さいってなもんです。

ぼかし技法なんか、絶対に思った通りにボケてくれません。

「もう少しぼやけて欲しいんだけど…」なんてお願いしてもダメ。

もう水彩絵の具なんて早めに乾いちゃうから、うまくボカせない。

 

「もう少し滲んで欲しい」とか「そこまで滲まなくてもいいんだけど」

なんて水彩絵の具に言っても無駄。

もう勝手に滲んで、勝手にボケてしまうんです。

 

だから水彩絵の具に逆らわないというのがコツ。

水というのはそういう自由な性質がありますから、

とにかくそれを邪魔しない。

水に従うというのが基本です。

 

水彩画に於いては、水が人間より上なんです。

ブルース・リー截拳道ジークンドー)なんかも

「水の如く自由自在に」とか言ってませんでしたっけ?

 

そういう意味で、水彩絵の具というのはとても魅力的な画材ですが、

習得が難しいのも確かなんです。

ちょっと油断すると、グジャグジャになっちゃいますからね。

 

また、水彩絵の具というのは『空想的な画材』でもあります。

 

現実でにじみやぼかしという形は自然物以外にないと思いますが、

水彩絵の具では、人物もにじみやぼかしで描けます。

これは現実にはあり得ません。

 

背景に溶け込んでぼやけている人間を見たことありますか?

洋服と肌が滲んでいる人物なんていませんよね。

でも水彩絵の具ではそれが可能なんです。

 

このブログでも何度も書いてきましたが、

私は子供の頃から空想的なものが大好きで、今でもそれは変わらない、

もうおとぎ話なんて大好物なんですから。

 

そういう空想的なものを描くのにピッタリの画材。

それが水彩絵の具なんです。

とても不思議な絵の具で常に未完成な魅力がある。

 

にじみやぼかし技法なんて無限に描けます。

これがにじみだとか、これがぼかしだという正解がない。

絵自体に正解がないわけですが、

水彩絵の具はまさにその正解のないモノを描くための画材なんです。

 

だからドラキュラという空想的なキャラは、

もう格好の題材なんですね。

だって本物の吸血鬼ドラキャラなんていませんから、

本物らしく描くことができない。

 

だからいくらでも想像力を働かせて描けます。

今で言う『盛って』描けるんです。

それには空想的な画材である透明水彩が一番だと思います。

 

水という自然を使って描く水彩画に完璧はあり得ない。

常に未完成でいいんです。

もっと描きたいと思う手前でやめておく。

大きなものでない限り、小さな失敗は諦める。

人生と同じです。

あえてやり直さないという潔さが必要です。

 

アナログ技法には限界があり、どこかで諦めるしかありません。

諦めるという事は伸び代を残すことでもあります。

適当なところで完成した作品の方が、完璧に描いた作品より、

どこか伸び伸びして見えるのはそういうことだと思います。

 

だからこのドラキュラも未完成ですが、これでいいのです。

 

 

 

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