マッチうりの女の子
ハンス・クリスチャン・アンデルセン作 スベン・オットー 絵
童話館出版
★★★★★ 素晴らしい!
原作はあまりにも有名なアンデルセン童話ですが、
すでに多くの人々に知られたお話も、一流の画家の挿絵が付くと、
こうも素晴らしい作品に変貌するという好例です。
♥
挿絵画家のスベン・オットーさんは、国際アンデルセン賞を受賞した画家で、
そのスタイルは、極めてオーソドックス。
奇をてらったところは微塵もなく、とにかく正攻法のそれも水彩画です。
彼は透明水彩の名手で、とにかく何時間でも見ていられます。
日本でオットーさんの原画展を見たことがありますが、
素晴らしかったです。
技法としては柔らかく正確な鉛筆による線画を基調とし、
鉛筆線の上から透明水彩絵具で着色するという
極めてオーソドックスな描き方です。
ファンタジックな絵ではないのに豊かな空想性があるという
魅力的な絵を描く絵描きさんなのです。
若いときはどうしても革命的な絵柄に惹かれるものですが、
ある程度の年齢になると、
落ち着いた正攻法のデッサンを基にした絵に戻ります。
そして、子どもの本の絵というのは、
本来こうした基礎がしっかりした絵と空想性を必要とするものです。
スベン・オットー 氏は、その両方を兼ね備えた優れた画家ですから、
幼少期に子供に読んで聞かせる物語の絵としては最適でしょう。
ヨーロッパの子供たちは幸せだと思いますが、
日本でもかなりの数のオットー作品が翻訳されていますので、
是非ご覧になってください。
♥♥
日本の児童書業界は長い間、
こうした優れた画家を育てることを怠けてきました。
文学と絵画こそが最高のもので、
イラストレーションという新ジャンルを拒否してきたため、
時代の変化に追いつくことができず、
物語の絵を的確に表現できる技術も人材も廃れてしまいました。
つまり、優れた画家はいるのですが
物語の絵が描ける挿絵画家がほとんどいません。
一枚絵(絵画)と挿絵(物語の絵)は違うのです。
大人の都合だけの芸術絵本という見当はずれの企画に明け暮れたため、
『子どものための絵』とは何かがわからなくなっているのでしょう。
そのため、
日本の絵の現状は、どうしてもマンガやアニメが中心となり、
その影響は児童書にも及んでいます。
慣れというのは恐ろしいもので、
それが子どもの本を害していることに気がつく人はあまりいません。
基本が何かがわからなくなっているのだと思います。
つまり、子どもの本の絵とは何か? というテキストが不在なのです。
そんな中、このスベン・オットーさんのような基礎がしっかりした
空想力のある絵を日本の子どもたちに見せる意義は大きいと思います。
ラストで、
マッチ売りの女の子が冷たく息をひきとる悲しい場面が描かれますが、
オットー氏は、少女の死という残酷な現実そのものを描くのではなく、
ある工夫を凝らして、それを優しく子どもたちに伝えようとしています。
画家の良心を感じる素晴らしいシーンです。
お勧めいたします。
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