岩井田治行の『くまのアクセス上手♪』

興味を持った本と映画のレビューとイラストを描く♪

メガネのスパイ『パーマーの危機脱出』♪

 

パーマーの危機脱出

FUNERAL IN BERLIN

1966年 アメリカ・イギリス/ガイ・ハミルトン督作品

満足度★★★★ お話が複雑すぎます

 

f:id:kumajouz:20190819235606j:plain



ハリー・パーマーシリーズ第2弾!

第1作以上にややこしいお話で頭が混乱する。

公開当時、確か2本立てで観た記憶があるが、理解できなかった。

今回、DVDで2回観て、ようやく理解できた♪

 

さて、不本意ながらイギリス情報部で働くパーマー伍長は、

相も変わらずスパイらしくないスパイである。

何のために働くかと言えば、生活と出世のためなのだ。

こんなにも地味な情報部員がジェームズ・ボンドと同時代に存在した。

同じ部署だからパーマーもボンドの活躍は知っていたはずだ。

『オレもボンドのように美女を抱いてみたい!』

パーマーだって男だからそう思ったことだろう。

 

楽家が東ベルリンから西へ亡命するシーンから物語は始まる。

パーマーが女と部屋にしけ込んでいるところへ指令の電話が鳴る!

このシーン、ボンドなら色気たっぷりなのだろうが、

色気より生活感があるのがパーマーらしい♪

 

パーマーにはミス・マネーペニーのような美人秘書はいない。

イギリス情報部には若い女性職員もいるのだが、手を出そうとすると、

くわえタバコにメガネをかけたやり手のアリスおばちゃんが現れ、

パーマーの行く手に立ちはだかるのだった!

パーマーはアリスおばちゃんに愛想笑いするしかないのだ。悲しい。

 

しかし、

陸軍伍長からスパイに転身したパーマーはたくましく成長していた。

メガネもコートも第1作よりオシャレになっている。昇給したから♪

 

f:id:kumajouz:20190819235708j:plain

 

前作で確立したパーマーというキャラクターは、さらに血の通った男に!

非常に頭の切れる抜け目のない人物として描かれる。

これはコネリー氏には演じられないキャラクターだろう。

(ちなみに、『国際諜報局』のレビューに掲載したパーマーのコート姿の写真は、

すべてこの第2作のものである。念のため)

 

さて、前作よりもさらに複雑なお話とは…

原題の『ベルリンの葬送』というタイトルが示すものは

東から西への亡命の手段のこと。これがひとつの見せ場になっている。

ストック大佐というベルリンの壁の責任者が亡命を希望してくる。

パーマーの今回の任務はこの亡命を手助けすることだ。

 

f:id:kumajouz:20190819235737j:plain

 

(パーマーに亡命を持ちかけるストック大佐。これがなかなかのくせ者で…)

 

ベルリンへ飛んだパーマーは、同僚バルカンの手引きで

ロイツマンという亡命の専門家に会うことに。

ところが任務中、パーマーはサマンサという謎の美女に誘惑される。

ストック、バルカン、クロイツマン、サマンサ、そして…

007でのQ?のような情報部のハラムという男。

 

ハラムはストック大佐の亡命に必要な『ある書類』をハリーに渡す。

ポール・ルイ・ブルームという男の証明書だが、

すでに故人であるこの男を書類の上で生き返らせる。

ストック大佐をこの男に仕立てて西側へ亡命させようという計画だ。

 

ストック、バルカン、クロイツマン、サマンサ、ハラム、

そして… ポール・ルイ・ブルームの証明書類。

 

この時点で重要な人物名が6つ登場する。

この6人の名前をしっかり覚えておかないとわけがわからなくなる。

 

ストック大佐を亡命させるため、

ベルリンの同僚バルカンの力を借り、

ロイツマという男に金を払い、亡命作戦を決行する。

その作戦には、同僚のハラムが準備した偽造書類

ポール・ルイ・ブルームの証明書が必要だった。

その証明書類を狙うのがサマンサという女なのだ。

サマンサがハリーを誘惑したのはそのためだった。

 

もう好きにしてほしい。

私には、ここまで理解するのも大変だった。

しかし、これで困惑していてはこの作品は楽しめない。

これはほんの序章。お話の本筋はここからなのだ。

ストック大佐の亡命劇に、もうひとつのお話が絡んでくる。

山田悠介流に言えば『もう頭痛が痛い!』展開だ。

 

観ている方も混乱するが、それはパーマーも同じこと。

しかし頭の回転の速いパーマーは、置いてきぼりにされた観客をよそに、

的確に状況を把握して、お話の流れに乗っていく。かっこいい~!

 

マイケル・ケイン演じるハリー・パーマーは、

一見ボンヤリしているようで、実はコロンボ並みの頭脳の持ち主だ。

コロンボと違うのは、銃も扱える点である。

格闘技もなかなかだ。地味だけど♪

 

非情なスパイの世界を生活のために生き抜いていく。週30ポンドで!

それがハリー・パーマーという男である。

まさにサラリーマンスパイの元祖なのだ。

 

亡命劇だと思って観ていると、その裏にもうひとつの物語が!

ストック大佐が仕掛けた罠と同僚のハラムが仕掛けた罠が絡み合い

さすがのハリーも振り回されるのだ。

ストック大佐の罠は観ていればわかるのだが、

わかりにくいのは、同僚ハラムが仕掛けた罠である。

スムーズに進んでいた物語に、いつの間にか巧妙に別の物語が入り込み、

後半はもうひとつの物語を中心に進んでいく。

このシフト加減が絶妙で『えっ?』となるからご注意を!

 

とにかく、登場人物の名前をよく覚えておくことがポイント。

メモを取りながら観ることをお勧めする。

メモを取っても2回観ないとわからなかった私はスパイにはなれない♪

もう少しわかりやすい作戦が立てられないものか!

 

こういう入り組んだ展開は小説的ではあっても映像的ではない。

それをここまで面白く出来たのは、マイケル・ケインの功績だろう。

この人が主演でなければ忘れられてしまったB級作品かもしれない。

 

現在ならもっと簡単にこなせたろう亡命作戦も

アナログ時代にはこうするより他に手はなかった。

どんな作戦かは見てのお楽しみだ♪

 

地味ながら、騙し騙されというスリリングな展開が見所!

まだベルリンの壁があった時代にロケを敢行して制作された本作には、

東西の検問所や生々しい鉄条網などの姿が捉えられている。

もう、こういうリアリティのある作品は創れないと思うと寂しい。

 

壁崩壊前の東西ベルリンの風景が楽しめる貴重な作品!

観始めるとグイグイ物語に引き込まれるから不思議!

前作とは趣の違う哀愁漂うメロディも印象的。

https://www.youtube.com/watch?v=J6QLEBAl0-s

 

ラスト。

全てを理解したパーマーの去り行く後ろ姿に流れるこの曲が悲しい。

孤独なスパイにピッタリのメロディで感動すら覚える。

パーマー、かっこいい~! 地味だけど♪

 

第1作同様、何度観ても観飽きぬ魅力に満ちている。

もう少しわかりやすい脚本なら100てん♪

監督は『007/ゴールドフィンガー』のガイ・ハミルトン

 

ネット上の『パーマーの危機脱出』の画像を流用・加工させて戴きしました 感謝!

 

 

岩井田治行コミック  にほんブログ村/映画評論・レビュー