ミギとダリ 1
初めて読むマンガ家さんの作品。
なかなか夢中になれるマンガがないなぁと思っていたところ、
これは久々に面白いマンガに出会ったと感激。
作者は女性なので、少女マンガ家らしい絵柄なのだが、
ちょっと不気味な雰囲気もあって、
サイコスリラーだと思って読んでみると…
何ともおかしいギャグマンガだった♪
女性の描くギャグは独特で、
これもそういう不思議な感性に満ちている。
一体どこからこういう発想が出てくるのかと感心する。
♥
神戸市北区にあるオリゴン村。
アメリカの郊外をモデルに作られた架空の町が舞台だ。
まずこの設定がユニークで可笑しい♪
登場人物もどことなくアメリカ人っぽいのだが違和感がない。
子供に恵まれない老夫婦の家に秘鳥(ひとり)という男の子が
養子として来るところから物語は始まるのだが、
表紙絵を見てわかるように双子である。
しかしこの少年はなぜか双子であることを隠したまま、
文字通り一人の人間として老夫婦に迎えられる。
なぜ双子であることを隠すのかは、第1巻には描かれていないが、
双子がオリゴン村に来たのはある不穏な目的を果たすためらしい。
その意味ではサイコサスペンス的な要素がありゾクゾクする。
サイコ物の定番として、普通に見える人間が実は! というのがある。
秘鳥少年はとても素直な子で、老夫婦は一目で気にいる。
サイコ物の定番では、この男の子が徐々にその本性を現して…
となるのだが、このマンガはそうはならない。
第1巻には5つのエピソードが収録されているが、
全て双子が一人の人間を演じ、老夫婦を騙すというパターンである。
二人が入れ替わっても老夫婦は気がつかない。
この双子ミギとダリの違いは、髪の分け方が逆という1点のみ。
あとは瓜二つなので、まさか秘鳥くんが2人いるとは思いもよらない。
しかし現実的に考えれば、これはどうしても無理がある。
人間には気配というものがあるので、一つ屋根の下に暮らせばわかるはずだ。
それが全くわからないという無理な展開を違和感なく進めるところに
このマンガの真骨頂がある。さりげない力技で押し通すのである。
「油断するなよ ミギ」
「百も承知さ ダリ」
という双子の会話があるのだけれど、これ可笑しくないですか♪
何となく可笑しいんですよね、こういう感覚が。
ミギとダリ。
右と左から発想したのかな♪ 可笑しいよね、この名前が♪
♥♥
ある日、
テーブルで老夫婦と食事をしている秘鳥くんが
テーブルの下に隠れているもう一人の秘鳥くんと瞬時に入れ替わる
という場面があるのだけど、これはどう考えても無理だろうと♪
テーブルの下から出て来るときに、絶対テーブルにおでこがぶつかる。
椅子からテーブルの下に滑り込むときに、絶対椅子に後頭部がぶつかる。
つまり、『ゴン!』『ゴン!』って音がするからすぐバレる。
ところがこの双子、グイ! スチャ! と瞬時に入れ替わる。
老夫婦は気がつかない。
オイ、 ウソだろ! と思うのだけど、入れ替わるんですね、鮮やかに!
こういうことを平然とやってのけられると何も言えなくなる。
もうやったモン勝ちですね♪
また別の日には、
ある事情があって、トイレのドアが開かなくなる。
ドアの前で老夫婦がこういう会話をするシーン。
「そうだママ トイレに換気窓があったじゃないか。
そこから中に入ってカギを…」
「やぁねパパ 換気窓よ。通れるとしたらタコぐらいよ」(P.93)
会話の意味はわかりますが… このマンガ家さんはわざわざコマの左上に
換気窓から入って来るタコの絵を描くんですね。それもリアルなタコを!
小さく狭い窓だから軟体動物のタコなら入り込めるのはわかるけれど、
それをビジュアル化する必要があるのか? と思うわけ。
もう描いたモン勝ちなんですよ、これは!
すごく面白いセンスだなぁと感心します。
ある意味、日本人離れした感性かも。英国風というか、泥臭さがない。
モンティパイソンなんか、このマンガ家さんは大好きじゃないかと♪
この表紙絵もなんとなく可笑しい。
顔はサイコスリラー風の三白眼の少年二人だが、
何をしているかというと、おにぎりを作ってます。
腰の横から伸びている左手が味付け海苔を持っているのが、
なんとも可笑しい♪
ゲラゲラ笑うというギャグではなく、クスクス笑いですね。
ウイットがある。
まだ30代の若いマンガ家さんなので、
この先どんな作品を生み出したか興味津々。
ところが神様は意地悪で、
このマンガ家さんを早々に天にお召しになった。
36歳ぐらいで急逝したと聞いています。本当にもったいない。
佐野菜見さんの新作をもっともっと読みたかった。
超オススメの一品です。
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