岩井田治行の『くまのアクセス上手♪』

興味を持った本と映画のレビューとイラストを描く♪

メイキングのフランケンシュタインの怪物(水彩画の制作♪)

 

透明水彩

フランケンシュタインの怪物を描こう!
 

 

 

ドラキュラを描いたのだから

フランケンシュタインの怪物も描こう!

 

というわけで、

数あるモンスターの中で、ボリス・カーロフの演じた

フランケンシュタインの怪物ほどユニークなものはない。

私はそう思う。

 

小学生の時、『ショック!』というTVドラマがあった。

アメリカで制作されたものだが、

これは怪奇映画を1時間にまとめた番組だった。

ドラキュラ、フランケンシュタインの怪物、狼男、ミイラ男、半魚人

などなどが毎週登場するご馳走のような番組である。

 

小学生の私はオリジナルの映画を知らないので、

この番組でこれらの怪奇作品を知ったのである。

 

1時間番組だからコマーシャルを入れると40分ほどのダイジェスト版だが

子供の私をワクワクさせるには十分だった。

その中でも私を一番感動させたのが、

このフランケンシュタインの怪物である。

 

もう貪る様に観て涙した。怪物が可哀想で可哀想で。

人間ってなんて酷いことをするんだろうと思った。

 

この時初めて観たフランケンシュタインの怪物ほど哀れなものはなかった。

同時になんて魅力的なんだろうと心に深く残った。

それからずっとこの怪物は大好きなのだ。

 

TV局が再放送してくれない限り、繰り返し見ることができなかった時代。

だから本当に数回しか観たことがないにも関わらず、

私の心に深く深く残ったのが

ボリス・カーロフの演じたあの怪物だった。

ちなみにこれがカーロフ氏の素顔である。

かなりのイケメンではないだろうか。

⬇︎

 

それがメイキャップでこうなるのだ。

⬇︎

この恐怖の完成度はなんだ!

もう完璧ではないか!



そもそもドラキュラや狼男はいまだに新作が創られている。

CGを駆使した『ウルフマン』なんて、

どうやって撮影したのだろうと思うほどの狼人間を創り出している。

ドラキュラの新作もネットの動画を見る限り進化している。

 

しかし、フランケンシュタインの怪物だけ新作がない。

少なくともそういう情報が入ってこないのだから

創られていないのだと思う。

と言うよりも創れないのではと思うのだ。

 

ドラキュラや狼男には決定打がない。

ベラ・ルゴシクリストファー・リーは確かに当たり役だった。

でも他の役者でも演じられるのだ。

この役者がいなければできないという決定打にはなり得なかった。

 

一方のフランケンシュタインの怪物はと言うと、

これはもう、ボリス・カーロフの怪物以外は考えられない。

代用品がないカーロフの独壇場と言える。

同じメイキャップをしても無理だろう。

 

それはユニークなメイキャップだけでなく、

カーロフ氏の演技力に依るところが大きいということだ。

誰にも真似できないばかりか、誰にもあの怪物を超えられない。

そういう決定打を生み出してしまった。

だから新作が創れないのだろう。

 

売れない役者ではあったが、

カーロフ氏はこの役をやりたくはなかったと思う。

最初にオファーを受けたのはドラキュラ役で人気の

ベラ・ルゴシ氏だったらしいが、断られた。

理由は簡単。品がないということらしい。

由緒正しき伯爵ではなく、死体のツギハギでできた怪物だから。

誰だってやりたくはなかったろうと思われる。

 

ある日、撮影所で一人で食事をしていた売れない役者カーロフ氏の

そのなんとも言えない淋しげな表情が監督の目にとまり

白羽の矢が当たったとか。

「もうこいつしかいない!」

監督は直感でそう思ったんでしょうかね。

 

試写を観たカーロフ氏はこうつぶやいた。

「あぁ、これで俺の役者人生は終わった…」と。

ところが横にいた監督はこう返した。

「何を言ってるんだ! 君はこれで映画史に残ったんだよ!」

 

そして半世紀後、

カーロフの怪物は誰にも越えられない存在として映画史に残っている。

なんという奇跡だろう。素晴らしい!

 

そんなフランケンシュタインの怪物を描かないわけにいかない。

もう大好きなんだから!

参考にする写真はこれである。

⬇︎


まずは鉛筆で下描きです。

 

STEP1

 

写真を見ながら鉛筆で大雑把に形を取ります。

おお、なかなかいい構図だ。

と思ったのですが、今一つ足りません。

テーマの怪物の哀しさが出ていないのです。

さてどうする…??

(壁にぶつかった時は、答えが出るまでひたすら考えます)

 

 

STEP2

 

なぜ上手く描けないのか1日考えてわかりました。

参考写真の完成度があまりにも高すぎるのです。

写真として完成されているので、

どうしてもそれ以上のものがイメージできない。

 

そこで写真にない両手をつけ加えることで、

なんとか私のイメージした怪物になりました。

 

どうしていいかわからなくなり、

袋小路に入り込むと時間だけが過ぎていきます。

この時間は苦痛以外の何物でもないのですが

とにかく解決策が浮かぶまで、ひたすら考え続けるしかありません。

完成作品を見た人には、こういう産みの苦しみはわからないのですが、

これは創作の宿命なので、自力で乗り越えるしかありません。

 

 

STEP3

 

サップグリーンとバーントアンバー(焦げ茶色)の混色で

画面全体を上から下へ徐々に暗くなるようにグラデーションで塗り、

絵の具が乾いたら、水を含んだ筆でハイライト部分を濡らし、

ティッシュで絵の具を拭き取り陰影をつけます。

ここまでは一気に仕上げます。

 

陰影による描き方は比較的簡単で初心者にもできますが、

調子に乗ってやり過ぎるとつまらない絵になります。

 

参考写真が光と陰で恐怖感を上手く表現しているので、

この写真をなぞるだけで劇的な表現が可能ですが、

それだけでは絵になりません。

 

写真はあくまで参考であり、描くのは自分の絵(世界)ですから、

参考写真のトレースにならないように注意深く描きます。

作品のテーマは『怪物の理解されない哀しさと孤独感』です。

陰影テクニックを見せるのが目的ではありません。

 

とは言え、

この光と陰による表現は劇的な効果が出ますので、

描いていてとても楽しいことは確かです。

何枚でも描けそうですね。

 

 

STEP4

 

さらに陰影を強くしていきます。

技法としては、陰影をつける部分に暗めの色を塗り、

その後でハイライト部分を水を含んだ筆でなぞり絵の具を溶かし、

ティッシュで拭き取るという作業です。

これを納得いくまでひたすら繰り返しますが、

つい面白くなり、やり過ぎてしまいがちなので注意が必要です。

 

影の部分をそれらしく描くのは難しいですが、

まず全体に濃いめの色を塗り、

その後で絵の具をふき取るという技法は、初心者でもできると思います。

紙の白地を残すのと違って、

この方法では完全に絵の具をふき取ることはできませんが、

その分、自然で柔らかな光を表現できるのでオススメです。

 

 

STEP5

 

さらに服の色を濃くします。

一度塗った絵の具を拭き取りながら服の質感を描いていきます。

絵の具の拭き取り作業はやり過ぎないように。

おどろおどろしい感じが出てきましたが

なんとも言えない哀しさが伝わってきます。

こんな体で生まれたくはなかったでしょうね。

本当にかわいそうな怪物です。

 

 

STEP6

 

全体の色バランスを考えて細部を描き、

ハイライト部分に白絵の具を塗りメリハリをつけます。

洋服にスパッタリングで絵の具を飛び散らしタッチをつけます。

顔にも少し細かい絵の具を飛び散らして調子をつけています。

もっと描き込めますがここで完成とします。

 

随分リアルな怪物が描き上がりました。

最初の構想では軽めに仕上げる予定でしたが、

描いているうちにのめり込んで描きこむようになりました。

 

とにかく描いている間中、怪物が可哀想で可哀想でなりません。

せっかくこの世界に生まれてきたのに、

自分と同じ人間が一人もいないのです。

 

怪物は自分と同じ女性の人造人間を造るよう懇願しますが、

フランケンシュタイン博士は怪物との約束を破り逃走します。

原作小説の後半は、怪物が博士を北極まで追いかけて、ついには殺してしまい、

自分も北極海に身を投げるという壮絶な最期を迎えます。

映画の2作目『フランケンシュタインの花嫁』では、

女性の人造人間が造られますが、

怪物の顔を見た途端、叫び出してしまうという

なんとも悲しいシーンになっていて胸を打ちます。

 

せっかく造ってもらった自分と同じ人造人間からも恐れられてしまう。

なんという可哀想な怪物なんだろうと。

この映画版のラストも好きなんです。

 

女性の人造人間を抱きかかえたまま研究所は崩れていきますが、

居合わせた人間たちに怪物は叫ぶのです。

「GO!(行け!)」

 

こうして怪物は女性の人造人間を抱きかかえたまま

建物もろとも滅んでいくというラスト。

もう絶句です。

 

原作小説を読んだのは中学の時で、

映画とは随分違う展開に驚きました。

それでも怪物の哀しみは同じで胸を打ちました。

 

原作の怪物は人間の言葉を習得して人間と仲良くなろうとするが、

その醜い姿ゆえに恐れられてしまいます。

映画では言葉を喋れぬ怪物として描かれますが、

その哀れさをボリス・カーロフが渾身の演技で表現しています。

 

このカーロフ演じる怪物は唯一無二の存在で、

いまだにそのリメイクが創れません。

数あるモンスターの中でも出色のモンスターだと思います。

 

 

 

 

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