岩井田治行の『くまのアクセス上手♪』

興味を持った本と映画のレビューとイラストを描く♪

背景描写が印象的なコミック♪



フールナイト(1)

安田佳澄 小学館  ★★★★ ユニークかも♪

 

f:id:kumajouz:20210627215254j:plain




ネットの試し読みで数ページ読んで絵に興味を持ち購入。

似たような絵が多い中、安田氏は自分のスタイルを持っているようだ。

 

私が子供の頃のマンガは、描き手の絵柄がみんな違っていた。

似たような絵柄はすぐに淘汰されるか、あまり人気が出なかった。

マンガ雑誌が月刊・週刊合わせて十数誌しかなかった時代だから、

個性がないとデビューできなかったのだと思う。

 

それに比べ現在は様々なマンガ誌がひしめき合い、

300誌以上あるようだ。

これに有料・無料のウェブコミックを加えると驚くような数になる。

当然、それだけのマンガ家が必要になるのだが、

独自の個性を持つ人がそんなにいるわけがない。

結果、似たような絵柄や物語になるのは仕方ないのだ。

 

そんな中で、このマンガはちょっと光ってる。

 

 

近未来の日本。

『厚い雲が日の光をさえぎり100年が経った』世界。

冬と夜ばかりの世界で、多くの植物は枯れてしまう。

人々は植物という自然によって、心を癒すことができない。

植物に変わるものが必要だと考え出されたのが

人間を植物に変える「転花」という技術だ。

死期の近い人間の体に種を埋め込み、

その人間の魂を栄養分にして成長した植物は「霊花」と呼ばれる。

 

霊花の言葉がわかる特殊能力を持つ主人公は、

その能力を買われ、この転花技術を扱う転花院という施設の職員になる。

物語はここから始まる。

 

人間の魂を栄養にする。

ということは、

この世界には人の魂が存在するのだ。

ってホンマかいなと思うが、これはフイクション。

「植物人間」という言葉をそのまま形にしたような作品だ。

 

まず目を見張るのがこのマンガの「絵」である。

丸ペンかミリペンで描かれる繊細な線が眼に飛び込んで来る。

作風はわりと写実的だが、写真のようなリアルさではなく、

あくまで「マンガ絵」である。

イラスト的とも言えるだろうスタイルは、

アクションには不向きで「静止画」の魅力を持っている。

 

かなり凝った描き込みの連続なので物語を追うのがしんどい。

物語より「絵」に見入ってしまうからだ。

第1巻の160ページぐらいまでは、読んでいて正直疲れた。

もう読むのをやめようかと思った矢先、

物語が俄然面白くなり、最終ページまで読み切った。

 

「霊花の言葉がわかる特殊能力を持つ主人公」という設定。

すでに霊花になってしまった人々は、

どんな理由で植物になることを決めたのか。

転花院で働くことになった主人公の青年の未来は?

第2巻が楽しみな作品だ。

 

 

私は物語より安田氏の「絵」に魅力を感じる。

作家が絵を描いたというより、画家がお話を描いたという感じ。

「マンガ作家」ではなく「マン画家」なのだろう。

個人的には「画家が描く物語」に興味があるので、

私にはとても魅力的な作品なのだ。

 

 

そしてこのマンガで一番の注目は『背景描写』である。

アシスタントを使わず、作者が全てを描いているのではないかな?

キャラクターと背景のタッチが同じに見えるから。

フリーハンドの人物に対して、背景は定規を駆使した細密画である。

 

この背景画は良い♪

この人、背景描くの大好きなんじゃないの。

もう本当に楽しんで描いてるって感じで、見ていて飽きない。

 

この感覚は坂口尚さんを思わせる。

坂口さんも背景を描くの大好きだったらしく、

「人物より背景だけを描いていたい」という言葉を残しているほどだ。

坂口さんの背景も定規を駆使した正確な描線が特徴で、

しかも構図に狂いがない。もう完璧と言っていい。

 

安田氏の背景にも同じものを感じる。

定規で細かく描くの大好きなんだろうなと。

植物や草木の描き方にも独特の個性がある。

もって生まれたものなのだろう。

 

だから見ていて飽きない。

じっと見つめていると時間の経つのさえ忘れてしまう。

お話は始まったばかりだが、物語はどうでもいいから、

この背景画だけをいつまでも見ていたい。

 

なんか個人的な趣味で申し訳ない。

ちょっと変な作品レビューになったが、

興味のある人は是非読んで!

 

 

岩井田治行コミックス  にほんブログ村 /にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ