フールナイト(1)
安田佳澄 小学館 ★★★★ ユニークかも♪
ネットの試し読みで数ページ読んで絵に興味を持ち購入。
似たような絵が多い中、安田氏は自分のスタイルを持っているようだ。
私が子供の頃のマンガは、描き手の絵柄がみんな違っていた。
似たような絵柄はすぐに淘汰されるか、あまり人気が出なかった。
マンガ雑誌が月刊・週刊合わせて十数誌しかなかった時代だから、
個性がないとデビューできなかったのだと思う。
それに比べ現在は様々なマンガ誌がひしめき合い、
300誌以上あるようだ。
これに有料・無料のウェブコミックを加えると驚くような数になる。
当然、それだけのマンガ家が必要になるのだが、
独自の個性を持つ人がそんなにいるわけがない。
結果、似たような絵柄や物語になるのは仕方ないのだ。
そんな中で、このマンガはちょっと光ってる。
♥
近未来の日本。
『厚い雲が日の光をさえぎり100年が経った』世界。
冬と夜ばかりの世界で、多くの植物は枯れてしまう。
人々は植物という自然によって、心を癒すことができない。
植物に変わるものが必要だと考え出されたのが
人間を植物に変える「転花」という技術だ。
死期の近い人間の体に種を埋め込み、
その人間の魂を栄養分にして成長した植物は「霊花」と呼ばれる。
霊花の言葉がわかる特殊能力を持つ主人公は、
その能力を買われ、この転花技術を扱う転花院という施設の職員になる。
物語はここから始まる。
人間の魂を栄養にする。
ということは、
この世界には人の魂が存在するのだ。
ってホンマかいなと思うが、これはフイクション。
「植物人間」という言葉をそのまま形にしたような作品だ。
まず目を見張るのがこのマンガの「絵」である。
丸ペンかミリペンで描かれる繊細な線が眼に飛び込んで来る。
作風はわりと写実的だが、写真のようなリアルさではなく、
あくまで「マンガ絵」である。
イラスト的とも言えるだろうスタイルは、
アクションには不向きで「静止画」の魅力を持っている。
かなり凝った描き込みの連続なので物語を追うのがしんどい。
物語より「絵」に見入ってしまうからだ。
第1巻の160ページぐらいまでは、読んでいて正直疲れた。
もう読むのをやめようかと思った矢先、
物語が俄然面白くなり、最終ページまで読み切った。
「霊花の言葉がわかる特殊能力を持つ主人公」という設定。
すでに霊花になってしまった人々は、
どんな理由で植物になることを決めたのか。
転花院で働くことになった主人公の青年の未来は?
第2巻が楽しみな作品だ。
♥♥
私は物語より安田氏の「絵」に魅力を感じる。
作家が絵を描いたというより、画家がお話を描いたという感じ。
「マンガ作家」ではなく「マン画家」なのだろう。
個人的には「画家が描く物語」に興味があるので、
私にはとても魅力的な作品なのだ。
そしてこのマンガで一番の注目は『背景描写』である。
アシスタントを使わず、作者が全てを描いているのではないかな?
キャラクターと背景のタッチが同じに見えるから。
フリーハンドの人物に対して、背景は定規を駆使した細密画である。
この背景画は良い♪
この人、背景描くの大好きなんじゃないの。
もう本当に楽しんで描いてるって感じで、見ていて飽きない。
この感覚は坂口尚さんを思わせる。
坂口さんも背景を描くの大好きだったらしく、
「人物より背景だけを描いていたい」という言葉を残しているほどだ。
坂口さんの背景も定規を駆使した正確な描線が特徴で、
しかも構図に狂いがない。もう完璧と言っていい。
安田氏の背景にも同じものを感じる。
定規で細かく描くの大好きなんだろうなと。
植物や草木の描き方にも独特の個性がある。
もって生まれたものなのだろう。
だから見ていて飽きない。
じっと見つめていると時間の経つのさえ忘れてしまう。
お話は始まったばかりだが、物語はどうでもいいから、
この背景画だけをいつまでも見ていたい。
なんか個人的な趣味で申し訳ない。
ちょっと変な作品レビューになったが、
興味のある人は是非読んで!
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