岩井田治行の『くまのアクセス上手♪』

興味を持った本と映画のレビューとイラストを描く♪

これは隠れた名著。 子供向けだが大人が読んでも十分に役立つ♪

 

 

はずれ者が進化をつくる
 

 稲垣栄洋 ちくまプリマー新書  ★★★ 面白い!

 

 

 

主に雑草を研究している植物学者稲垣栄洋氏の本だが、

若者(小学生から中学生ぐらい)を対象に書かれた植物学の本である。

 

1時間目から9時間目までの9つの授業形式で稲垣先生の講義が進む。

個性、普通、区別、多様性、らしさ、勝つ、強さ、大切なもの、生きる

これらは一体何を意味するのかを『植物』を中心に語るというユニークな本だ。

 

植物のお話なのだがいつの間にか『人生とは何か?』というお話になっている。

子供向けなので語り口はとても優しくわかりやすく、しかも奥が深い。

読んで印象的だった授業について書こう。

 

 

まず初っ端から野菜や花の種と雑草の違いについてこう書かれている。

野菜や花は人間に都合のいいように改良されている。

だから人間の言う通りに芽が出るのだ。

ところが雑草は人間の言う通りにはならない。

いつ芽を出すかは自分で決めるのである(P.15)

だから雑草を育てるのは非常に難しいのだと。

 

まずこのオープニングの先制パンチはどうだ。実に痛快じゃないか。

そうだ。人間の言う通りに芽を出す必要などない。

人間に合わせることなく、バラバラに芽を出したいときに出せばいい。

これが『個性』なんだよと稲垣先生はおっしゃる。

ああなるほど。とてもわかりやすい。

 

さらに雑草の凄いところは何か?

人間は『雑草のようにたくましく』という言葉が好きだ。

雑草は『踏まれても踏まれても立ち上がる』からである。

 

ところがこれは間違いだと稲垣先生は言う。

どこが間違いかと言うと、

雑草は『踏まれたら立ち上がらない』のだと。

えっ、そうなの? と私は驚いた。

 

その理由がスゴイのだ。

そもそも植物にとって大切なこととは何か?

それは花を咲かせて種を残すことだ(P.162)

だから植物はそのことにエネルギーを使う必要がある。

踏まれて立ち上がるという『余計なこと』に使うエネルギーはない。

 

つまり雑草にとって『立ち上がること』は、すなわち無駄なことなのである。

植物というのは最小限のエネルギーで動くように設計されているから、

格好良く立ち上がるなどという『世間体』は無駄な行為でしかない。

 

植物にとって『大切なこと』は『花を咲かせ種を残すこと』だ。

雑草はこの『大切なこと』を決して忘れない。

泣かせるぜ。

 

 

そしてここからがこの本の白眉である。

では立ち上がらない雑草はどうするのか?

踏まれたままなら上へ伸びることができない。

しかし伸びる方向が『上』だと誰が決めた?

『横』でもいいのである。

 

そう、雑草は踏まれたら立ち上がらず『横』へ伸びることにエネルギーを使う。

立ち上がるという『世間体』など気にせず、

どんなに格好が悪くても平気で『横へ横へ』と伸びることをやめない。

 

しかし非情にも、この『横』へすら伸びることができないことがある。

人間はこれを『八方塞がり』といって嘆き、

嘆くことに無駄なエネルギーを使う。

ところが雑草は違うのだ。

『上』も『横』もダメな時は『下』に伸びていく。

つまり『根』を伸ばすのである。スゴイ!

 

これはこのまま人生論である。

今八方ふさがりの人は、雑草を見習うといいかもしれない。

私はここを読んで涙が止まらなくなった。

一見成長していないように見える人生のスランプ時代にも、

『根を伸ばす』という芸当が人間にもできるのである。

我々はついこの『大切なこと』を忘れてヤケクソになりがちだ。

 

人生に無駄な時間はない。

無駄であるというのは人間の思い込みかもしれない。

地中深く『根』を伸ばす時間がどれだけ長くても、

それは無駄な時間ではないのだ。

 

根とは植物を支え、水や養分を吸収する大切なものだからだ(P.172)

 

植物は人類が誕生する遥か前からこの地球に生息していた。

そして人間や他の『動物(動く物)』とは全く違う進化をしてきた生き物である。

植物は『動かない(正確には、動物のように素早くは動かない)』

という生き方を選び取ったが、

決して人間に比べ『のろまで劣っている』わけではない。

 

人間よりもこの地球では人生の大先輩なのである。

踏まれた雑草はこう言うだろう。

「そもそもなんで立ち上がらなければならないのですか?」と。

 

雑草のこの生き方は、人間に多くのことを教えてくれる。

「立ち上がらなければ競争社会では勝てないじゃないか!」と私は思う。

ところが雑草はこう言うかもしれない。

 

「そもそもなんで勝たなくてはならないのですか?」と。

 

雑草にとって大切なことは勝ち負けではないのだ。

花を咲かせ種を残すこと。

 

人間はどうだろう。

人間にとって花を咲かせるとは何を意味するのだろう?

単に社会で成功することだろうか?

種を残すとはどういうことなのだろう?

子孫さえ残せばそれでいいのだろうか?

 

子供向けの植物の本を読んで、こんなにも考え込むとは思わなかった。

この他にも

人間はなぜ順番をつけたがるのか?

という興味深い考察や

示唆に富んだ植物の面白いお話が満載!

本当にこれは隠れた名著だと思う。お勧めいたします!

 

 

 

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