吸血鬼
THE FEARLESS VAMPIRE KILLERS
1967年アメリカ・イギリス/ロマン・ポランスキー監督作品
満足度は★★★☆だけど、笑うよ♪
『水の中のナイフ』や『反撥』で注目された映像作家だ。
何か難しい映画を撮るという印象があるが、
『ローズマリーの赤ちゃん』や『チャイナタウン』といった
娯楽作品でも功績を残している才人だ。
そんな芸術家肌の才人が、何を血迷ったか吸血鬼映画を撮った!
これは笑うぞ♪
芸術家として世に出てしまったポランスキーだが
実はお笑いが大好き(かもしれない♪)
この映画は共同で脚本を書いている。
あろうことか吸血鬼映画の脚本をだ!
さらに出演までしている♪
ジャック・マッゴーラン扮するアブロンシウス教授と
この2人の吸血鬼ハンターのお話だが、
撮りたかったんだろうな、この映画♪
ブレイク・エドワーズ監督の『グレートレース』に登場する
フェイト教授と助手のマ~ックス♪を思い出す。
警部に就任する前のピーター・フォークが演じたマ~ックス♪
ポランスキーは、このマ~ックス♪と同じボケ担当だ。
そして、これがビミョ~に可笑しいのである♪
好きなんだろうな、ボケるの♪
このボケるポランスキーが素のようで笑うぞ♪
芸名はロマン・ボケルノスキーだ♪
★
ポランスキーの『吸血鬼』は
原題を『THE FEARLESS VAMPIRE KILLERS』という。
直訳すれば『恐れを知らぬ吸血鬼ハンターたち』だ。
この『恐れを知らぬ』というのが可笑しい♪
少しは恐れろよと♪
お話は非常にシンプルな直球勝負。
吸血鬼撲滅をライフワークにする老教授。
その老教授と門弟がトランシルヴァニアの雪深い山奥で、
ただひたすら吸血鬼を追いかけて追いかけて追いかけるというお話。
実に正攻法である。
登場する吸血鬼もヒネリなし!
驚くほど由緒正しき吸血鬼が登場する。
ニンニク嫌い。十字架嫌い。鏡に映らない。
黒いマントに身を包み、コウモリになって夜な夜な飛ぶぞ!
吸血鬼というポピュラーな題材を使った心理劇かと思いきや、
これがオーソドックスなコメディなのだ。あらびっくり!
さらに、ポランスキーがボケるボケる!
これは観て感じるしかないのだが、微妙に可笑しい♪
可笑しいのだけど不気味だったりする。
実にオモロイ感性である。
現在市販されているDVDでは削除されていると聞くが
まずは、オープニングのアニメーションに注目だ。
あの有名なMGMのマークがいきなり…
このシーンがねぇ~ 何ともええ感じやで~♪
手描きの素朴なアニメでなぁ~ ええやん♪
吸血鬼の牙から滴り落ちた血が下へ下へと垂れて行くと~
手描きの監督名に続き、タイトルが現れる~♪
その血の滴がキャストの名前の文字にからみつき~
なめるように下へ下へと垂れて行くで~♪
そのぎこちなさは感動ものや~♪
こんなんCGでやったらアカン! 情緒がない!
手描きやからこその面白さやな~♪
さらに、バックに流れる音楽がいいぞ!
不気味な男女混合のコーラスや。
たまらんぞ、このオープニングは~♪
そしてフィルム合成による雪山の場面から物語は始まる。
このオープニングの美しさは映画史に残る!
シャンシャンシャン♪ シャンシャンシャン♪ いうてね~
雪ゾリの鈴の音が聞こえてきますよ~♪
★★
ネタバレのため詳細は書けないが、
注目すべきは、この作品の設定だ。
アブロンシウス教授は吸血鬼を撲滅するため、
長年、吸血鬼研究を続けている異端の学者として描かれる。
その長年の功績?により学会を追放される。
つまり、
この映画の世界では、吸血鬼の存在が不確かなのだ。
トランシルヴァニア地方に伝わる伝説として存在するだけで、
その実態は広く知られてはいない。
いるのかいないのかよくわからない吸血鬼は、
文明社会では空想物語として一笑に伏せられている。
アブロンシウス教授は、
この吸血鬼の文明社会への進出を防ごうとするのだが、
味方はボケるのが大好きなアホの門弟ただ一人♪
登場する吸血鬼もドラキュラ族ではないようだ。
村人を支配しているのは、クロロックス伯爵という貴族であり、
この伯爵の一族が吸血鬼族である。
彼らは村人の中から若い娘(生娘)を選び、生き血を吸う。
そういうことを何百年も続けて来たらしい。
伯爵に支配されている村人は、口を封じられている。
閉ざされた村社会での隷属的な関係なのだ。
ポランスキーは、この世界観を詳しくは描かない。
物語を追ううちに、それとなく感じられるようになっている。
なっているが、伯爵一族の詳細は不明である。
不明であるが、ホモの息子がいて、
アルフレッドに食いつこうとする!
前述したように、吸血鬼映画の新機軸というより
非常にオーソドックスな怪奇映画である。
吸血鬼は限られた土地に住み、そこから外へは出ないらしい。
しかし、いずれ彼らは文明社会へ進出するかもしれない。
その前に退治してしまおうというお話なのだ。
吸血鬼の存在を信じるのは、アブロンシウス教授と門弟だけ。
そういう世界で起る珍騒動である。
★★★
ポランスキーはその騒動をコメディという手法を使い、
コテコテのギャグ満載で描いている。
そこがユニークかも?
若き奇才という世界的な評価を受けた人間の多くは、
自分の才を誇示しようとするのが常なのだが、
ポランスキーは定番の笑いで勝負する。
気をてらったところがない。
その定番ギャグがいきなりオープニングで炸裂する!
【寒すぎて全身が凍るというギャグの基本技♪】
雪ゾリに揺られ、トランシルヴァニアの片田舎に到着した教授が
な、なんと! いつの間にか凍ってしまった!
あまりにも定番すぎて意表を突いている。
これはいきなり笑うぞ♪
さらに、
コチコチに凍った教授を村人が家へ担ぎ込むというシーン!
アンタ、芸術家ちゃいますやん!
エンターテナーちゃいますの いうてね~♪
★★★★
さあ、ここからがロマン・ボケルノスキー劇場だ!
【ボケ 其の一】杭打ち芸♪
何のシーンか説明しなくてもわかると思うが、
このシルエットというのが、あまりにもベタで笑うぞ♪
杭を打とうとするが… 間違って手を叩いてしまうという
お約束のボケを平気でかます♪
【ボケ 其の二】杭逆持ち芸♪
【ボケ 其の三】杭落とし痛がり芸♪
その杭を足の上に落とし、大袈裟に痛がるのも基本だ♪
大監督は、昔こんなことをしていた。楽しそうだ♪
【ボケ 其の四】天然芸♪
これは【杭落とし痛がり芸】の静バージョンだ。
吸血鬼が恐くて一人で寝られない小心者のアルフレッドは、
シレ~ッと教授のベッドに潜り込み怒られる。
このボケでは、杭落とし芸の大袈裟な動作を封印するという、
出来うる限りの自然さが要求される。難度は高い!
【ボケ 其の五】素知らぬ素振り♪
口笛を吹いてごまかすという、これも基本中の基本だ!
今や子供でもやらないベタな芸をかます!
【ボケ 其の六】ビジュアル芸♪
眠る吸血鬼の部屋に忍び込もうとすると
教授のお尻がつっかえて抜けなくなるというギャグ♪
ベタなボケだが構図が美しい♪
その教授をボケルノスキーが救出せんと向かうシーン。
このビジュアルの美しさを観てほしい!
こういうところが普通の怪奇映画と一線を画すかも♪
美しいと言えば、この映像も美しい♪
【ボケ 其の七】しょ~もない芸♪
雪ゾリにしがみつくボケルノスキー!
ハッキリ言って、こんなシーンはなくてもいいが
放っておくとコイツはどこまでもボケる!
どう観ても、この人は昭和の芸人である。
★★★★★
ポランスキーにとって、
この頃が公私ともに、一番楽しかったのではないか♪
コメディを創るにはユーモアのセンスが不可欠だ。
人を笑わそうという小賢しい計算より、
自分が楽しむことが先かもしれない。
この映画を観る限り、
ポランスキーの笑いのセンスは天性のものだ。
その笑いは、深い人間観察から来るものだろう。
人間を突き詰めて描くと滑稽になる。
そういう人間に愛おしさを感じるのかもしれない。
ポランスキーの生い立ちは、決して幸せではなかったようだ。
監督として成功してからも、数々の辛い経験をしている。
ポランスキー少年はどんな子どもだったのだろう?
そのヒントがこの映画にあるような気がする。
とてもユーモアのある利発な子どもだったのでは?
戦争やナチスとは無縁の子ども時代を過ごせたとしたら、
チャップリンのような存在になっていたのでは?
考えても仕方ないが、そういう人生もあったかもしれない。
この映画はポランスキーの陽の面が色濃く出た珍しい作品である。
子どものような無邪気さに満ちている。
しかし、その背後に深い闇も感じる不気味な映画である。
未見だが、ポランスキーは
『欲望の館』と『パイレーツ』という2本のコメディを撮っている。
撮っているが、この2作の評判はまず聞かない。
本当は撮りたいのだろう、コメディを!
それがポランスキーの素の姿なのだ。
またコメディを撮ってほしい!
頼むよ、ボケルノスキー(ボケるの好き~)なんだから♪
★ 映画『吸血鬼』の画像をお借りし、加工させていただきました。感謝!★