岩井田治行の『くまのアクセス上手♪』

興味を持った本と映画のレビューとイラストを描く♪

『アパートの鍵貸します』を観て微笑む♪

 

 

アパートの鍵貸します

THE APARTMENT

1960年アメリカ/ビリー・ワイルダー監督作品

★★★★★ 素敵なおとぎ話

 

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原題の『アパートメント』より、邦題の『~の鍵貸します』の方がいい。

うまいタイトルを付けたなぁ~と思う♪
そしてとても50年以上前の作品とは思えない。

テンポはいいし、中だるみはなく、最後まで一気に観せる。

その上とてもわかりやすい。

わかりやすく面白く創るのは、案外むずかしいもの。お見事!

 

保険会社の独身平社員バクスターには秘密があった。

4人の課長に情事の場として、自分の部屋を貸していたのだ。

4人の課長が入れ替わり立ち替わり利用するものだからたまらない。

仕事を終え帰宅しても情事が終わるまで外で待たねばならぬ。

夜風が身にしみるがそこは我慢のバクスター

上役に協力することで出世できるかもしれないからね。

 

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ささやかな野心と言えばそうだが、

そもそも、お人好しで頼まれると断れない質のバクスター

ある日、友人に部屋を貸したことが社の連中に知れ渡り、

やがて上役の耳に届いてしまう。

そしてバクスターの部屋は上役の逢い引きの場所となったのだ。

 

バクスターが情事のスケジュール合わせに奔走する姿が描かれる。

この調節が案外むずかしいのだった。

おまえ何してんだ、会社で! と、ひとツッコミ入れよう。

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4人の課長(後に部長が加わる♪)はステレオタイプの男性だ。

確かにこんなことばかり考えてる奴はいるだろう。

仕事もしないで、何やっとん! という奴。

いるよね、世界共通なのだね♪

 

家で夫の帰りを待つ妻は何も知らず、

逢い引き相手の女性は利用されるばかり。

 

男が女を渡り歩くのは、家庭が寂しいからだ

 

などと、勝手な御託を並べ立てる。

その前に働けよ、ちゃんと!

 

男の本性丸出しの上司に仕える部下はたまらないが、

そこは案外賢いバクスター、割り切っている。

こっちだって上司を利用してるんだぞと。

 

見方によっては、女性蔑視と言われかねない設定なれど、

これが名作として今に残っているのは、ひとえにセンスの良さだ。

監督、脚本、音楽、スタッフ、キャストに品がある。

まさに、古き良きアメリカなのだ。

でも、品のまえに働けよと!

 

 

 

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ジャック・レモンシャーリー・マクレーンの共演という奇跡!

今、こういう役者はいない。

この2人の共演を観るだけでも価値がある。

そういう古き良き時代の映画である。

 

利用する人とされる人、後者はとことん損ばかり…

 

恋人に裏切られたS・マクレーンが、我が身の不遇をなげくと

それに答えてJ・レモンは『そうかな』と言う。

この『そうかな』というセリフが、観る者を勇気づけてくれる。

 

しかし、現実はどうかと言えば…

『そうだよ、損ばかり…』と答えるしかない世の中。

自分を利用する人間からは、離れるにこしたことはない。

その前に、自分を利用しようとする人間を見抜かねばならない。

自身の人間関係を変える事は案外できるもの。

この物語の主人公たちは、利用される関係から一歩踏み出すことができた。

つまり、そういう『おとぎ話』である。

 

現実のバクスターは、今でも上司にゴマをすりながら生きてるのだろう。

S・マクレーン演じるフランは、今でもエレベーターガールかも。

絵に描いたような幸せは2人には訪れない。

やがて適当な相手を見つけ結婚して家庭を持つ。

 

その先は、この映画の冒頭シーンに戻るのだ。

ダンナは会社で同僚との情事に励み、

妻は何も知らずに子育てに追われる。

夢も希望もあったもんじゃない。

 

そこまでではないにせよ、映画のようにはいかないのだ。

努力は必ずしも報われず、愛は幻想なのだろう。

大人になれば、嫌でも知る現実である。

 

それでも人間は繰り返し愛の大切さを描こうとする。

時にシリアスに、時にユーモラスに。

愛が幻想であったとしても描かずにはいられない。

バクスターとフランは、あの先どうなるのだろう?

不幸にならないまでも、映画が暗示する未来は来ないかもしれない。

大人には、2人の未来がそれとなくわかる。

 

そういう人間だからこそ『おとぎ話』が必要なのだ。

この映画に突っ込んではいけない。素直に観よう!

 

こういう良く出来た『おとぎ話』は、

われわれにちょっとした勇気と賢明さをくれるもの。

半世紀経った今日でも、この名作は善良な市民の味方なのだ。

 

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愛は幻想だとしても、この2人の笑顔は本物である。

人間には、こういう感情が与えられているのだ。

それだけで十分素晴らしいじゃないか♪

 

面白かった!!


 

ネット上のアパートの鍵貸しますの画像を流用・加工させて戴きしました 感謝!

 

 

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