岩井田治行の『くまのアクセス上手♪』

興味を持った本と映画のレビューとイラストを描く♪

一般人には参考にならないが、読み物としては面白いかも♪

 

 

秋本治の仕事術

秋本治 集英社  ★★★ みんなの参考になるのかな♪

 

 

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タイトル通り『秋本治の仕事術』の本。

人気マンガ家秋本治さんがどうやってマンガを描いてきたかが書いてある。

セルフマネジメント術から始まり、

時間術。コミュニケーション術。発想術。健康術。未来術の6編。

一見するとビジネスに役立つのでは? 人生指南の本かも?と思う人がいるはずだ。

しかし読んでみると、一般の方にはあまり役に立たない内容だと感じた。

 

私はごく単純に、

秋本治さんがどうやって40年間週刊誌の連載を続けられたのかを知りたくて読んだ。

結果、秋本さんだから出来たのだということがよくわかった。

つまり、マンガの仕事にとても向いていたということ。

この『向く』には『マンガを描く才能』が含まれるのだが、

才能ある人がみんな秋本さんのようなやり方で仕事ができるかというと、

多分そうじゃないだろうということもわかる。

 

秋本さんはただひたすら目の前の仕事を一つづつ続けた結果、

気がついたら40年経っていたと言う。

そんな単純なわけないのだが、

秘めたる苦悩についてはほとんど書いてないのでわからない。

デビューしてから一度もネタに困ったことがないとか、

担当編集者との付き合いで嫌な思いは一度もないと書いてある。

どこまで本当かわからないが、事実ならとても幸運な仕事人生だと思う。

 

マンガのネタは常にストックしていたので困らなかったというが、

じゃあ誰でも必要なアイデアを常にストックできるかというと、

そうではないだろう。

編集者も当たり外れ(失礼)があるのが普通で、

困った担当さんがいてもおかしくない。

そんなにいい人ばかりと40年も仕事ができるとすれば奇跡に違いない。

 

この本には『やはり人間は、それなりの苦労をするべきだと思います(P.161)』

という言葉がある他は、

仕事での具体的な苦労や失敗談については、ほとんど書かれていない。

書けば愚痴になるし、
この本は秋本さんのホームグラウンドの集英社から出ているので、

著者と出版社間の負の出来事については書けないという
大人の事情があるのかもしれない。

そういうトラブルが全くなく、
40年間、同じ出版社で仕事を続けることができたとすれば、

非常に特殊な事例と言っていい。まぁ、本当なのかもしれない。
すごいですね♪

 

この本によると、秋本さんは深夜1時就寝、7時半起床、

午前9時から午後7時ごろまで仕事をし、夜更かしはほとんどしない。

勤め人と変わらぬ生活を送っているという。

とても健康的だが、寝るのが嫌いで、睡眠は6時間ほどでいいようだ。
羨ましい体質ですね♪

この生活はマンガ家になる前からの習慣らしく、

つまり、秋本さんにはこのリズムが一番合うらしい。

仕事の会話は常に敬語で丁寧に話し、アシスタントに怒鳴ったことはないという。

 

アシスタントは全て社員で給料制、

プロダクションは株式会社にして、タイムカードを導入している。

実になんともキッチリしているが、
秋本さんはこの方がやりやすいのだとおっしゃる。

毎朝7時半に起きて、9時から仕事をし、

アシスタントさんにも仕事関係者にも常に礼儀正しく、締め切りは守る。

大人と言えばそれまでだが、この本を読んでいると、それだけではなく、

秋本さんの性格によるところが大きいということが強く感じられた。

 

だからこの本を参考に秋本さんのように仕事をしようとしても、

夜の方がはかどる人や対人関係が苦手な人、

キッチリしてると逆にイライラする人、性格的に時間にルーズな人、

朝7時半に起きても午前中は活動できない人、つい怒鳴ってしまう短気な人…

そういう人は参考にしたくても無理だろう。

そもそも、ほとんどの人は週刊誌の連載という仕事などしていないから。


秋本さんがとても努力家であることはよくわかるし

才能あるマンガ家であることもよくわかる。

物腰が柔らかく常識人で、規則正しい生活を送っているのもわかる。

でもこれは秋本さんが仕事をする上で、

自分が一番楽しく効率よく仕事をするにはどうすればいいかを長い間考え続け、

少しづつ工夫して編み出していった方法なので、汎用性は少ないと思う。

 

多くの人はネタのストックができず、対人関係で悩み、
運不運で言えば不運に見舞われ、

さらに好きなことで食う才能がない人がほとんどだろうから、

特殊な人間の特殊な人生についての本と見るべきだろう。

多くの成功者が書く本と同様で、ある意味、できる人の論理で書かれているため、

できない人には役立たないと思う。

多くの凡人の悩みは、これではダメなのでこうしよう! と決意してもできない。

こういう方法がいいと思い実行するが、どうしても上手くいかない。
だから悩み苦しむのだ。

 

この本の文面を読むと

「これではダメなのでこうすることにした」「私はこうしているので困らない」

というニュアンスで書いてあるが、言葉を変えれば、

『私は逆上がりができなかったので、出来るようになった』という感じなのだ。

それでもできない私はどうするの! という人の救いには、多分ならない。

 

多くの人がこの手の本に求めるのは正にそれで、「それができれば苦労しないよ!」

という声が聞こえてきそうだ。

だからといって秋本さんが上から目線で書いているかというと
そうじゃないところが、
人柄の良さなんだろうと思う。

 

秋本さんは性格的にどんなことが起きても
あまり深く考えず、悩まない(P.017)らしい。

マンガ家はリスクの高い仕事なので、深く考えていたら出来ないと言う。

ポジティブな性格ではなく、ただ鈍感なのだとも言うが、

それも持って生まれた性格だと思う。

何事にも執着しない。さっと切り替えるということが自然体でできるらしい。

非常に羨ましいが、それこそが才能だろう。

生き馬の目を抜く人気競争の世界で生き残るには、

根性だけではなく、こういう才能が必要なわけで、

それは努力によって身につくというより、生まれ持ったものにちがいない。

つまり、日本のマンガ業界に適応できる能力を持っているということだ。

これはマンガを描く才能とは必ずしも一致しない特別な才能だと思う。

 

結論を言うと、この本から何かを学べるとしたら、
それは読んだ人によるということ。

何らかのヒントを見つける人もいれば、私には無理! と諦める人もいるはずだ。

プロのマンガ家を目指す人にも、あまりに特殊すぎて参考にはならないだろう。

日本人は割と失敗談が好きらしいので、

ここまでキチンとしていると、別世界の出来事と感じる人が多いのではないかな?

誰もが短かに感じるような内容ではないと思う。

繰り返しますけどね、

そもそもほとんどの人は、週刊誌の連載など持っていないのだ♪

 

ただ、読み物としては面白いし、

秋本治という人の人柄が文章に表れている点などは好感が持てる。

参考にならないと書いたが、それは読んでみなければわからない。
意外と参考になるかも♪

私は夜更かしをやめようと思った他は、あまり参考にはならず、

結局は無理せず自分に合った方法でやるのが一番だという思いに至ったが…

秋本さんのファンなら読んで損はないかもしれない。

 

 

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