岩井田治行の『くまのアクセス上手♪』

興味を持った本と映画のレビューとイラストを描く♪

動物映画、でも役者の方が魅力的♪

 

 

ボブという名の猫
幸せのハイタッチ

 

2016年 イギリス/ロジャー・スポティスウッド監督作品

満足度 ★★★★★ いいですよ♪

 

 

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BSで放送されたものをたまたま観たのだが、

出だし5分ほどで引き込まれた。

いわゆる動物ものである。

俳優は子供と動物との共演を嫌がるらしい。

なぜならどんな名優も子供と動物にはかなわないからだ。

美味しいところを全部持って行かれる。

げに恐ろしきは子供と動物なのだという。

 

ところが…

この映画はねぇ、ちがいました。

主役のジェームズを演じたルーク・トレッダウェイがいい。

映画の出だし5分では、まだ猫くんは出てこない。

にも関わらず引き込まれたのは、

ひとえに役者トレッダウェイの存在感である。

 

 

♠︎

薬物中毒から抜け出そうとするジェームズという青年と

ボブと名付けられた茶トラの猫の交流を描いた実話。

ジェームズはミュージシャンを目指したらしいが挫折。

父親に捨てられ自暴自棄になり薬に走る。

荒んだ生活を送っていたジェームズは、これじゃいかんと一大決心し、

薬物中毒から抜け出すための更生プログラムを受けるのだが、

住む家もなくホームレスのまま

ストリートミュージシャンで食いつなぐ日々だ。

 

冒頭のこのホームレス生活がとてもリアル。

役者トレッダウェイの演技が自然で説得力がある。

この青年の家に足をケガした茶トラの牡猫が迷い込む。

どこかの迷い猫だろうと飼い主を探すが見つからない。

仕方なく飼うことに。

 

こうして1人と1匹の共同生活が始まるのだが、

この猫を連れて街で演奏するとなぜか人々が集まってくる。

この猫はまさに幸運を呼ぶ招き猫だったというわけ。

 

猫を肩に乗せ演奏するジェームズは徐々に世間の注目を浴びるが、

物事はそううまくは行かないものだ。

色々と紆余曲折を経て、

でも最後はハッピーエンドとなる定番の物語。

 

実際に出版社がジェームズ君に目をつけ本を書かせ、

その本がベストセラーになるというサクセスストーリー。

この映画はそのベストセラーの映画化である。

 

だからハッピーエンドは分かっている。

どんなに悲惨な生活を送っていても

ジェームズ君が最後は救われることは明白なのだ。

 

悲惨な生活から抜け出そうとするがうまく行かない。

作劇法としてはこういう時は援助者を出すのが基本だ。

物語が停滞して主人公が身動き取れなくなった時、

お話を前に進めるには助っ人を登場させること。

これがお話作りの基本中の基本。

 

ところが現実ではそうタイミングよく助っ人は現れない。

でもジェームズ君の前には本当に奇跡が現れた。

作劇法のテクニックなど使わずとも頼もしい援助者が。

それが1匹の猫というところが嘘みたいによくできている。

でも実話だから仕方ない。

お話作りの基本通りの展開が起こったなんて、

何とも不思議である

 

劇中で、この猫は目的を持ってやって来た

という意味のセリフがあるが、まさにその通りなのだ。

 

 

♠︎♠︎

だから観客はこの青年がこれからどうなるのだろう?

ジャンキーのまま死んじゃうのか?

などと心配する必要は全くない。

だって幸せになれるのだから。

 

そういうことがすべて分かっているにも関わらず

最後までぐいぐい引き込まれるのはなぜか?

 

それはもうルーク・トレッダウェイという役者の存在しかない。

この人、完全に猫に勝ってます。

猫も可愛いのだがトレッダウェイの方が魅力的。

まるで作り話のようによくできた実話を

最初から最後まで飽きさせずに観させるのは

監督の演出力も大きいけど、

やはり主役の演技がそれに十分に答えているからだ。

 

観ていてすごくいいなぁと思うのは、

トレッダウェイ演じる青年が猫のボブ君に話しかけるところ。

これが実に自然なのね。

まるで子供に話しかけるように自然に話してる。

でもこれは全て演技。

日本にはこういう役者はいないだろう。

 

先の見えている幸福物語を

ここまで夢中にさせる役者の演技力というものに

改めて感動しました。

 

監督の品のある演出にも注目!

この監督、決して感動的に描かない。

涙を誘う感動的な音楽などほとんど使わず、

ハリウッドや日本映画にありがちな感動シーンもほぼないです。

どちらかというと地味。

でもそれがとても自然で心地いい。

うまいなぁと感心しながら最後まで観ました。

 

ジェームズ青年の住む家にネズミが繰り返し出るシーンがあって、

それをボブ君が追いかけるわけです。

このシーンがとてもお洒落でチャーミング。

そこだけカメラが猫とネズミの目線になるんですね。

よく使う手なんだけど、

特にネズミの目線が可笑しいよ。

ククッ♪ っと思わず微笑むいいシーンです。

ああ、この監督センスいいなぁと見とれていました。

 

まだ観ていない方、どうぞご覧ください。

イギリス映画です。

 

 

ネット上の『ボブという名の猫』の画像を流用し、加工させて戴きました

感謝!

 

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