みどりのゆび
モーリス・ドリュオン 岩波少年文庫
★★★★★ 色々考えさせられます!
前からずっと気になっていた本をやっと読んだ。
大人の寓話であり、尚且つ子どもにも十分理解できる童話である。
作者は童話作家ではなく、
フランスのゴンクール賞受賞作家のモーリス・ドリュオン。
略歴を読むと、童話はこれ1作らしいのだが、詳しくはわからない。
発表されたのが1968年だから、米ソの冷戦時代である。
ドリュオン氏自身、第2次世界大戦に出征し、
レジスタンス運動に参加したらしい。
本物の戦争を知っている人なのだ。
そういう経歴から、反戦、平和が作品のテーマになるのは必然だろう。
本作はまさに反戦であり、平和の尊さを謳った作品となっている。
それを子どもにもわかるように平易な文章で書いたのには、
作者なりの想いが込められているに違いない。
これから人生という長い旅路に出ようとしている子どもたちへ、
ドリュオン氏は熱いメッセージを送っている。
2度と戦争を起こしてはいけない。君たちにはその使命があると。
反戦をテーマにした作品は多いが、この作品はその中でも非常にユニークだ。
♣︎
ミルポワルという架空の町に住む武器商人の夫婦に、
チトという男の子が生まれる。
武器を売る商売は大繁盛で裕福な暮らしを送っている。
チトは両親の深い愛情を受け、何不自由なく暮らしていた。
ところがこの男の子は他の子供とどこかが違う。
まず学校に馴染めない。教室にいると眠くなってしまうのだ。
学校はついに匙を投げ、チトを家に追い返す。
両親は仕方なくチトを自分たち独自の方法で育てることにした。
型にはまった学校の授業から開放されたチトは伸び伸びと成長するのだが…
ある日、チトに不思議な力があることがわかる。
チトはその不思議な力で、世界を平和にしようと試みる… というお話。
チトの持つ不思議な力とは何か?
これが実にユニークである。あっ、なるほどねえ~と♪
荒唐無稽だが説得力は半端ではない!
♣︎♣︎
このお話を読んでいて、
ふと美輪明宏さんの言葉を思い出した。
美輪さん曰く。
戦争を食い止めるのは簡単。
まず軍服のデザインを変えればいいのよと。
灰色の軍服を全てピンクにして、可愛い花柄やらフリル、レースをつける。
同じように戦車などの兵器もピンク色に塗って華やかに可愛くする。
その状態で人を殺せるだろうか? と言うのである。
これはねぇ、一見バカバカしいけど、言い得て妙だと思う。
ピンクのフリル付きの敵兵を見て殺意が湧くだろうか?
ピンクの花柄戦車に乗って町を破壊できるだろうか?
まともな人ならバカバカしくなるはずだ。本当にやってみればわかる。
みんな笑っちゃうと思うよ。やめようよ、戦争なんかと♪
本作でチトが用いたのは、まさにその手だった。
チトの能力が現実にあれば、ウクライナ侵攻はもう終わっているだろう。
流石のプーチンも戦意喪失するに違いない。
これで戦争をやめなければ人間じゃないよ。
われわれは自然の力にさからうことはできません(P.175)
チトの教育係の『かみなりおじさん』のこの言葉がいつまでも心に残る。
人間の愚かさは大自然の前には無力なのだ。
自然は人間のわがままを決して許さない。
戦争は自然の摂理に反するのである。
だから、人を殺してはいけない。
無益な争いはやめなければならない。
人間も自然の一部なのだから。
ラストは感動的だが、日本人にはピンと来ないかもしれない。
私はちょっと白けてしまったが、納得する人は多いはず。
欧米人は納得するんでしょうね、このラスト。
主人公のチト少年のひたむきさが心を打つ。
みんな子供の頃はチトと同じだったのだが、
大人になるにつれ忘れてしまったのだ。
子供のまま大人になることは、人間失格なんでしょうかね?
子供のままではわれわれは生きていけない。
どこかで大人にならなければならない。
つまり、いつか自分の中のチト少年と決別しなければならない。
それが大人になるということなのでしょう。
人間は生まれた時はみんなチトのような ⃝ ⃝ だったのに。
なんか寂しいです。
戦争について、人間について考えるヒントを与えてくれる楽しい本です。
オススメいたします。
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