岩井田治行の『くまのアクセス上手♪』

興味を持った本と映画のレビューとイラストを描く♪

ツヴェルガー女史のファンは、1冊持っていてもいいです♪

 

 

 

リスベート・ツヴェルガーの世界
 

 リスべート・ツヴェルガー BL出版

★★★★★ 素晴らしい!

 



 

 

オーストリアが生んだ世界的イラストレーター、

リスベート・ツヴェルガー女史の2冊目の画集。日本語版。

この人は本当に『天才』と呼ぶに相応しいアーティストである。

 

初めてこの人の絵を見た時、釘付けになった。

だいたい才能のある人は、20代で一角の仕事をしている。

ツヴェルガー女史もそうだ。

20代ですでにツヴェルガータッチと呼ぶに相応しいスタイルを確立している。

どうやったらこういう離れ業ができるのだろうと驚いた。

 

20代で仕事の基盤を作り、現在、69歳の彼女は、

30代から60代の40年間を切れ目なく創作の世界で生きてきた。

羨ましくもあるがこれは大変なことだと思う。

まさに才女である。

 

 

そんな彼女のデビュー前の未発表作品から

本画集発行年の2010年までの

代表的な作品を網羅した素敵な画集である。

ツヴェルガー女史のファンはぜひ本棚に一冊欲しいところだ。

 

この画集には、

ツヴェルガー女史自身が書いた『イラストレーターになるには』

という一文が掲載されている。

このツヴェルガー女史の文章を読みたくて購入する人もいるだろうが、

ここで一つ注意がある。

 

結論から言えば、イラストレーターになる方法は書かれていない。

ツヴェルガーという天才がどういう経路で画家になり、

現在に至っているのかという、

彼女の経歴が書かれているだけで参考にはならない。

 

あくまでツヴェルガーという稀代の天才の歩みが

彼女自身の言葉で綴られているに過ぎないので、

これを参考にイラストレーターを目指しても多分なれないと思う。

それほど特殊な経歴の持ち主なのである。

 

どこが特殊かというと、彼女はすごくシャイで内気な性格らしい。

だから才能はあるものの、世間に自分を売り込むなんてことは金輪際できない。

私は凄いのだと世間にアピールする度胸も図々しさも持ち合わせていないのだ。

 

ツヴェルガーの父はグラフィック・アーティストだったので、

彼女の才能は父親譲りなのかもしれない。

母は専業主婦のようだが、この母親がユニークな人だった。

 

な、な、なんと!

ツヴェルガーが友人と旅行中に、こっそり彼女の描きためた作品を持って、

あちこちの出版社に売り込んでしまったという。

そしてツヴェルガーの絵が児童書出版社の編集者の目にとまり、

「彼女が旅行から帰ったら社に寄るように」と言われたそうな。

 

つまりこれがツヴェルガーのデビューになったと言うのだ。

こんなんありか!

作品を売り込んだのはツヴェルガー本人ではなく、

母親が勝手にやっていた。凄いね、このお母さんは!

 

勿論、ツヴェルガーほどの才能があれば、自分で売り込んでも

必ずいつかは認められたことだろうが、内気な彼女にはそれができない。

母親がいて本当に良かった。

この母親がいなければ、

もしかしたら我々はツヴェルガーの素晴らしい作品に

出会うことはなかったかもしれないからだ。

お母さんありがとう!

 

ツヴェルガー女史はとても素直な人で、

「親の世話にはなりたくない!」なんて言わない。

「援助や恵まれた環境は受け入れよう」と書いています。

こういうところが人間ツヴェルガーさんの素敵なところなんでしょうね。

 

 

♥♥

世の中には才能があっても無名の人がたくさんいる。

運不運もあるだろうけど、図々しさの持ち合わせがないと

なかなか世に出られないという現実がある。

 

才能があっても内気なばかりに世に出られない。

または世に出るのが何十年も遅れてしまうということがある。

これ、なんとかならないかと思うのだけれど、内気な性格はなかなか治らない。

そのために世に出られないというのは実に不公平だと思う。

つまりね、この世はやった者勝ちということだ。

図々しい奴が勝つという不条理があるんですね。

 

ツヴェルガーさんの母親のような協力者に恵まれればいいけれど、

なかなかそういう出会いというのはやってこない。

でもね、絶対に諦めないでほしい。

内気なら内気なりの売り込み方が必ずあるから。

手を引っ張ってくれる人がいなくても、

背中を押してくれる人がいなくても、

内気で自己アピールする図々しさがなくても、

必ず自分を売り込む方法はあると思う。

 

それが何かと言われると困るが、必ずあると信じている。

だからイラストレーターになりたければ、

(ツヴェルガーさんのデビュー話は参考にならないけど、特殊過ぎて♪)

どんなに遠回りしてもいいから夢を叶えて欲しいと思う。

70歳でデビューというのもありだと思うから。

(どんだけ奥手なんだよ♪)

 

とにかく夢は諦めない。まぁ、諦めてもいいけどね。

諦めるというより、一旦手放す勇気を持つと言った方がいいかな。

無理はしない。できないことはやろうとしない方がいい。

やれる自信がついてから再チャレンジした方がいいです。

 

あまり参考にはならないが私の場合、

小学生の時にマンガ家になろうと思ったが、

二十歳ごろに才能がないと知りどん底に落ちた。

それでも絵を描くのは好きだったので、

なんとか絵で食えないかと考えたが自信がない。

 

大学は文学部へ進んだ。

卒業の前の年にオイルショックがあり、軒並み就職できない状況に遭遇。

バイトをしながらフラフラしていたら父に怒られて

知り合いの印刷会社に就職させられた。

制作課に配属された。

 

数年すると私に仕事を教えてくれた先輩たちがみんな辞めていく。

フリーのデザイナーやイラストレーターになっていった。

それを横目で見ていると無性に絵が描きたくなった。

お勤めなんかしている場合じゃないと退職し、

バイトをしながらデッサン教室に通って、本格的に絵の勉強を始めた。

26歳の時だ。

 

絵でなんとか食えるようになったのは35歳ごろだったと思う。

それから今までずっと、切れ目なく絵を描いて生きている。

 

私の場合、26歳までチャレンジする自信がなかった。

スタートは遅かったがそれで良かったと思う。

自信のない時に無理をしてもダメなのである。

 

というわけで、

ツヴェルガーさんの文章を読むためだけにこの画集を買っても

決して損はしないと思う。励みにはなるんじゃないかな。

 

デビュー前の貴重な未発表作品から、

セピア調のツヴェルガータッチがどう深化していくのかを一望できる画集です。

ファンの方には特にお勧めいたします。

 

 

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